【診断士 1次試験 企業経営理論】社長と部長で考えるドメイン問題

こんにちは、柴山です。


中小企業診断士 1次試験の中でも企業経営理論は最重要科目であると言っても差し支えないと思います。

理由としては、企業経営理論で学ぶことは

  • 2次試験 事例Ⅰ・Ⅱの出題の直接的な根拠となっている
  • 事例Ⅲでも組織的な事を問われるので無縁ではない
  • そもそも企業支援において最も必要となる知識である(普通に考えればそう)

ということで、合格するためには苦手なままにはしておけない科目です。今回はその中でも、第1問で出題されることが多い「ドメイン」に関する問題についてまとめてみました。

もう一つの「ドメイン」
今回の記事ではIT分野でのドメイン(=インターネット上の住所)のことは扱いません。そちらは「経営情報システム」の方で出てきます。

INDEX

企業ドメイン OR 事業ドメインを問う問題とは?

今回テーマであるドメインについては、日本語としては「活動領域」「活動範囲」といった意味で考えてもらえれば良いかと思います。

これが1次試験で出題されるときの定番としては、与えられた選択肢が、

企業ドメイン
会社全体の活動範囲。会社の大きな方向性や、将来どのような会社になりたいかに関わる。

事業ドメイン
個々の事業の活動範囲。特定の市場や顧客に対して、何をどのように提供するかを定義する。

2つのいずれに該当するかを判定させるというものです。説明だけでは分かりづらいと思いますので過去問をピックアップしました。

令和元年 第1問
多角化して複数の事業を営む企業の企業ドメインと事業ドメインの決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 企業ドメインの決定は、個々の事業の定義を足し合わせるのではなく、外部の利害関係者との間のさまざまな相互作用の範囲を反映し、事業の定義を見直す契機となる。

イ 企業ドメインの決定は、新規事業進出分野の中心となる顧客セグメント選択の判断に影響し、競争戦略策定の出発点として差別化の基本方針を提供する。

ウ 事業ドメインの決定は、将来手がける事業をどう定義するかの決定であり、日常のオペレーションに直接関連し、全社戦略策定の第一歩として競争戦略に結び付ける役割を果たす。

エ 事業ドメインの決定は、多角化の広がりの程度を決め、部門横断的な活動や製品・事業分野との関連性とともに、将来の企業のあるべき姿や経営理念を包含している存続領域を示す。

オ 事業ドメインの決定は、特定市場での競争戦略に影響を受け、将来の事業領域の範囲をどう定義するかについて、企業が自らの相互作用の対象として選択した事業ポートフォリオの決定である。

受験生は

  • ア・イの選択肢が企業ドメインの説明として適切か
  • ウ・エ・オが事業ドメインの説明として適切か

判別したうえで、1つの選択肢を選ぶことになります。

問題文が抽象的なことが多い「企業経営理論」の対抗策

企業経営理論という科目全体で受験生を悩ませるのは
問題文が抽象的で意味がよく分からん
ことが多い点です。

これに対抗する方法としてよく言われるのは、実際の企業や人物にあてはめてみるなどイメージを働かせるというものです。

ドメインの問題に関して私が使っていた「イメージ」は
選択肢にある案件を
事業部長が決定した場合、
社長がブチ切れるか、否か

です。

イメージしてみた結果、

  • 別にそのくらい部長の職権範囲内だから大丈夫だろ、と思えたら事業ドメイン
  • いや、勝手に決めちゃマズいだろ、と思える領域であれば企業ドメイン

ということになります。

他の用語の知識が無いと解けない問題もあるので、この視点だけで解答できるほど甘くはありませんが、知っておいて損はないと思います。

ということで、上の問題に当てはめて考えた場合、

選択肢イについて
「新規事業進出分野」について、担当部長が決定を行うのは普通の事なのでセーフ
⇒つまり、これは事業ドメインの話なので選択肢は誤り

選択肢ウについて
「全社戦略策定」を部長が勝手に決めたら社長がブチ切れるのは必至
⇒つまり、これは企業ドメインの話なので選択肢は誤り

選択肢エについて
「将来の企業のあるべき姿や経営理念」は明らかに社長案件
⇒これも企業ドメインの話なので選択肢は誤り

怒る社長と
怒られる事業部長

怒られる

複数事業間のことはどう考えるのか?

5つある選択肢のうち、3つは社長と部長のイメージのおかげで無事(?)切ることができました。残りア・オについて、より確実にジャッジするために、2つの考え方を持ち込みます。

その①事業ポートフォリオ
事業ポートフォリオは、複数の事業を営む企業が各事業の成長性や収益性などの観点から整理し、全体的なバランスを管理するための考え方です。逆に言えば単一事業の企業には事業ポートフォリオの考え方は必要ないということになります。

結論から言ってしまうと、複数事業を営んでいる企業が各事業にどれだけのリソースを割くか、などの意思決定は社長案件です。部長の役割は与えられたリソースを最大限有効に活用して各事業を成功に導くこととなります。

そう考えると、は社長案件を説明しているということが分かるので、これが事業ドメインだというのは誤りです。

ちなみに事業ポートフォリオの考え方を切っても切れない関係にあるのがPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)です。PPMは1次試験のテキストに必ず(絶対に!)載っているので、そちらを参照してください。

なおテキストにはPPMの欠点(事業間のシナジーが考慮されてない等)も載っているはずなので、それも忘れずチェックしておきましょう。

その②企業ドメインとは事業ドメインの寄せ集めではない
ざっくり言うと

◇間違った考え
ウチの会社でやっているのは事業A・B・Cです。だからウチの企業ドメインはA+B+Cになります。

◇正しい考え方
ウチの企業ドメインは○○です。それを実現するために事業A・B・Cをやってます。

現実の企業では企業ドメインとか、経営理念とか、シナジーとかあんまり考えずに、単に売上を増やしたいから新事業を始めちゃった…、ということが割とあると思います。

しかし試験ではそういった現実はいったん置いといて、テキストにある企業ドメイン・事業ドメインの概念に忠実な解答をする必要があります。

そう考えると、「個々の事業の定義を足し合わせるのではなく」、より広い視点で企業ドメインを考えるというは正しく、これが正解の選択肢なのだと分かります。

正直な話、この問題においてはの正誤の判定が一番難しく、イ~オの選択肢を切った後に消去法でが残る、というのが現実的な解答プロセスではないでしょうか。


まとめるとドメインの問題は、

  • 社長と部長、どちらの領分か考える
  • 事業ポートフォリオの考え方
  • 企業ドメインは事業ドメインの寄せ集めではない

この3つが頭に入っていれば、だいたい解けるかと思います。

ドメインを巡る別の論点とは?

前述のように「企業経営理論」でドメインについて問われる場合、企業ドメインまたは事業ドメインの判別をするのが主な出題パターンです。

その他、問われることは少ないですが、ドメインについて押さえておくべき論点は他にもあります。

モノとしての定義・コトとしての定義

その他に押さえておくべきこととしてドメインの定義の仕方には

  • 物理的定義
  • 機能的定義

この2つがあります。

物理的定義(モノとしての定義)
鉄道会社が自らの事業を「鉄道を運行する事業」と定義する。
⇒事業を狭く定義してしまう恐れ

機能的定義(コトとしての定義)
鉄道会社が自らの事業を「輸送手段・交通手段を提供する事業」と定義する
⇒事業にはバス・トラックなど様々なものが含まれる

モノとしての定義にこだわった鉄道会社は、時代の移り変わりとともに輸送手段の主流が鉄道以外にシフトしてしまうと対処できなくなる恐れがあります。

自分たちが社会に提供している価値が何なのか、コトとして捉える視点を忘れないことが重要です。

エーベルの三次元事業定義モデル

市場(顧客)軸
どのような顧客をターゲットとする事業なのかで考える。
例:就学前の子供がいる世帯をターゲットにした事業全般

機能軸
どのような価値を提供する事業なのかで考える
例:映画産業が自らを映画ではなく「エンターテインメントを提供する事業」としてとらえる

技術軸
どのような技術によって展開する事業なのかで考える
例:無添加食品を長期保存できる技術により展開する事業

これら3つの軸に優劣があるわけではなく、自社の中核となるノウハウが製造技術であれば技術軸にこだわり、ターゲット顧客のニーズ把握にあるなら市場軸にこだわる、といった具合に企業により取り組み方は分かれるかと思います。

また時代の変遷応じて、適宜ドメインの見直しも必要です。

たまにはドメインの見直しも必要?

例えば、

  • 健康食品と体重計を別事業として考えるか、ヘルスケア事業としてまとめて考えるか、
  • ある製品を相手先ブランドで売ることと、自社ブランで売ることを同じ事業とみなすか、別事業として考えるか

といったことには正解はありません。事業をとりまく市場環境などを見つつ、見直しが必要な時もあります。

ドメイン定義の失敗例
有名な例として、世界トップクラスのフイルムメーカーだった「コダック」は、自社を「フィルムの製造業」ととらえていたため。デジタル化に対応できず倒産しました。
「我々は最高の撮影環境をプロデュースする企業である」のように、事業ドメインを再定義していれば倒産せずに済んだかもしれません。

「企業経営理論」で第1問を取りこぼさないために

ドメインは「企業経営理論」テキストの一番最初の方に載っていることが多いです。そして試験本番では、何故か企業経営理論の第1問目で出題されることが多い(というかほとんど)です。

普通テキストというのは最初の方に基本的なこと、そして後半に応用的なこと・難しいこと・抽象度が高いことが載っています。

テキスト1周目が終わり、さあここから復習をしていこうかとなると、自然とまだ自信がない、難しい単元に意識がいってしまいがちです。しかし、テキスト後半ばかり復習していると、試験本番「企業経営理論」の第1問目で…

しまった、これ復習しとくの忘れた!
ということになります。

試験本番での配点は、難問だろうが簡単な問題だろうが同じなので、これは非常にもったいないです。そんな事態に陥らないように、ドメインについてしっかり押さえておいてください。

ちなみにドメインの問題は比較的最近では

  • 平成29年 第1問
  • 令和5年 第1問

にも出題されているので、この記事の内容を忘れてしまう前に、試しにやってみることをオススメします。

2次試験とドメインと競争戦略の関係

次に2次試験とドメインの考え方との関連について説明します。
2次試験の事はまだいいや
という方は、この章は読まなくても大丈夫です。

まず2次試験の準備を始めてない方の為に説明すると、まず2次試験では事例Ⅰ~Ⅳの4科目があります。各事例のテーマは以下の通りです。

  • 事例Ⅰ:組織・人事
  • 事例Ⅱ:マーケティング・流通
  • 事例Ⅲ:生産・技術
  • 事例Ⅳ:財務・会計

各事例では与件文(架空企業によるケーススタディみたいなもの)を読んでから、問題に応えることになります。ここで主役として登場する企業(事例企業と呼ばれます)は全て中小企業なので、経営資源が限られている前提で考えるのがお約束です。

そうすると、例えば競合の大手スポーツ用品店が主要スポーツジャンル全てを取り扱っているのに対抗しても勝てないので、
よし!我が社は得意な野球用品に特化しよう
みたいな事業戦略が必要となってきます。

やることを絞る、ということは「やらないことをはっきりさせる」ということと同じで、言ってみればこれはドメインを定義することでもあり、同時に競争戦略を定めることでもあります。

競争戦略については、事例Ⅱについて書いた下記記事が参考になると思いますので、良かったら読んでみてください。

合格後こそ、ドメインについて考える必要あり?

合格後に独立・開業を考えている方にとっては、
自分の活動分野をどうしようか
というのは切実な問題かと思います。

どんな活動を行うのか、あるいはどの分野には手を出さないことにするのか、まさにドメインの定義そのものです。

もっとも
診断士試験に合格後のことは合格してから考えればいい
と言われればその通りなのですが、それでも

  • 独立を予定していない方
  • 試験勉強がまだまだこれからの方

いずれの方も、自分が独立した場合のことをイメージしてみるとドメインの重要性が現実味を帯びてくるのではないかと思います。


ということで、今回はここまで。

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