【最新 令和6年 2次試験 事例Ⅰ】「卑怯なやり方」で後継者と組織を巡る問題を解く

こんにちは、柴山です。

今回は最新2次試験の事例Ⅰを解いてみます。例によって「解いてみます」とはいったものの、時間も測っていないし、手書きによる解答記述もしていないという卑怯ぶりです。

事例Ⅰといえば第1問からいきなり難しい(何を問われているか、分かりづらい)ことがありますが、令和6年はどうだったのでしょうか?

INDEX

概要:令和6年の事例Ⅰは図表が付く

先にアップした令和6年の事例Ⅰ・Ⅲと同様、与件文の文字数をWordに貼り付けてカウントしてみました。コピペの際に文字化けすることもありますので、細かい誤差はあるかもしれません。

  • 令和元年 2925(図表なし)
  • 令和2年 2407(図表なし)
  • 令和3年 2340(図表なし)
  • 令和4年 2943(図表なし)
  • 令和5年 3222(図表なし)
  • 令和6年 2819(図表あり)

事例Ⅰとしては珍しく、令和6年では組織図が付きます。長さ的にはは事例Ⅰ史上最長(多分)だった、令和5年よりは文字数が減っています。とはいえ、そこそこのボリュームです。

問題数については、第4問に設問2つが含まれている為、計5問あることになります。

PCでの閲覧推奨:令和6年 2次試験 事例Ⅰ 与件文&感じたこと

以下、画面を左右に分割、与件文全文と読みながら私が感じたことなどを並列にしてみました。必要無いし読みにくいと感じる場合もあると思いますので、今回は折り畳み式にしてあります。

画面の構成上、PCの方が見やすいです。スマホで閲覧の際は画面を横にして読んでください。

与件文とコメントを見たい方は、クリックにより展開してください⇒

令和6年 事例Ⅰ 与件文

 A 社は、1975 年創業の物流サービス企業で、従業員数は 120 名、売上高は 30億円である。創業者はトラック 1台から事業を立ち上げた。地元での地道な経営が功を奏し、徐々に売上高を伸ばし、トラック台数を増やすとともに営業所を開設した。しかし、A 社が創業当時、営業区域が規制により限られており、1 顧客にトラック 1台(貸切り)で対応する必要があった。他の荷主との混載ができなかったため、積載効率が悪く収益性が低かった。また、当時の主要顧客は中小零細の事業者であり、長期的な契約ではなくスポット取引が中心であり、取扱品の種類も顧客によってさまざまであった。

 創業後 10 年が経過する頃、取扱量が急速に増加したことに伴い、A 社では、それに対応するため、 2カ所目の営業所を設置した。さらに、自社保有のトラックでは取扱量に対応できなかったため、協力企業に輸送業務を委託することにした。A 社では、自社でトラック運転手を雇用する運送部を設置するとともに、地域の小規模トラック運送企業をメンバーとする協力会を組織して対応した。創業経営者は、この協力会の運営を、この頃 A 社に入社した非一族の経営幹部に任せることにした。

 1990 年に参入規制が緩和されたことにより、新規参入事業者が急増し、価格競争が激化した。A 社では、料金の値下げ要請や新たなライバルの出現の影響を受け、取引量が減少した。そのため A 社では、地元顧客のニーズにきめ細かく対応することで、価格競争を避け地元密着型の質の高い輸送サービスを志向した。A 社は協力会事業者の参加条件を定め、条件に適合するメンバーのみに輸送業務を委託する仕組みを構築した。A 社の経営幹部は、地元特有の荷主のニーズを収集するとともに、その情報を協力会の事業者間で共有することで、地元の生産者や食品卸などの多様な
荷主からの信頼を獲得した。A 社は、地域物流のコーディネーターとしての役割を果たし、協力会事業者との連携関係を築いた。

 2000 年に、A 社は倉庫管理事業に参入した。A 社の近隣地域に中小製造業が立地し、倉庫保管ニーズの高まりを見せていた。この頃、競合の物流事業者も相次いで物流拠点を建設したが、荷主からの仕分け作業を行う輸送拠点に過ぎず保管機能を持っていなかった。それに対して、A 社では自社で倉庫を保有し、流通加工や適切な温度・湿度で管理するサービスを提供することで、地元顧客のニーズに対応することができた一方で組織に関しては、旧態依然の管理体質が温存されていた。

 同じ頃、県内で食品スーパーを展開する X 社から引き合いがあり、A 社の倉庫を拠点にして X 社の各店舗への輸送業務を長期契約で請け負うことになった。A 社にとって、企業の物流機能の一部を担う初めての経験となった。A 社は、X 社との取引を通じて、入荷・ピッキング・梱包・仕分けや温度管理といった一連の保管業務や流通加工の能力を高めた。一方、物流取扱量の増加に伴い、紙の伝票管理など受注管理面において非効率が生じていた。元々、創業経営者は地元密着型の営業方針であったことから、A 社に入社した従業員たちも地元志向が強かった。また、この頃の A社は既存顧客との関係が強い反面、顧客の新規開拓力が弱かった

 他方、2010 年頃、県外との輸送の引き合いが増加してきた。そのような中、大手物流企業で物流企画部門や営業部門を経験してきた創業経営者の長女から A 社に入社したい意向が示された。長女は、首都圏での物流需要に可能性を見出していた。創業経営者は、長女をプロジェクトリーダーに任命し、若手社員 1名、首都圏での新規採用社員 1名とともにプロジェクトチームを組織させて新市場開拓を担わせた。

 プロジェクトチームは、当初スポット取引で首都圏の荷主企業より物流企画業務を少しずつ受託していった。2011 年に、プロジェクトチームは解散し首都圏事業部として再出発することになった(本社の運送部と倉庫部は県内事業部として発足)。首都圏事業部は、企業の物流業務の一部を受託し、トラック車両や倉庫を保有せず、首都圏の運送事業者や倉庫事業者を外部委託先としてコーディネートしてサービスを提供する業務を始めた。その結果、長女と同窓であった外食チェーン Y 社の経営者から案件を受託した。Y 社との取引を通じて、首都圏事業部は、受注処理の効率化や各店舗の在庫管理のノウハウを蓄積することができた。他方、県内事業部との業務の連携は、ほとんどなされていない状況であった。

 2020 年に、長女が 代目経営者に就任した。しかし、長女が事業部長を務めた首都圏事業部と異なり、県内事業部は年功序列的で古い慣習が残る組織体質であった。そのため、長女は、古くからいる経営幹部に県内事業部のマネジメントを一任していた。

 この時期、受注管理や在庫管理の高度化が要請されるようになった。従来、首都圏事業部では、情報システム構築や保守は外注していたが、情報システム自体が汎用品であり、コストが高い割に首都圏事業部の物流ノウハウに適合しないこともあった。2代目は、大手情報システム会社で物流システム構築に従事していた長男を A 社に呼び戻した。首都圏事業部にて新たに情報システム部を設立し、入社早々の長男を部長に任命するなど異例の抜ばっ擢てきを行った。さらに、長男の要望に基づいてプロパーの専門職を数名雇用した。

以下の図は、2020 年当時の A 社の組織図を示している。


図 2020 年当時の A 社組織図(省略)

 首都圏事業部は、比較的小さな組織であったため、 2代目と長男との間でさまざまな意思決定がなされた。長男は、やや独断的な面もあったが、持ち前の物流システム提案力を活かし、首都圏企業向けに営業を展開した。近年、首都圏で展開する大手スーパー Z 社から県内進出に当たっての案件が A 社に持ち込まれた。ただし、取引が始まると、各店舗の適正在庫管理や機動的な商品補充が A 社県内事業部で対応できていないなどの問題が顕在化し、Z 社からの物流業務の受託は部分的なものにとどまった。

 2024年、A 社では創業経営者の助言に基づいて配置転換を行った。経営幹部が専務取締役として 2代目経営者を支える体制とし、2 代目の長男を経営幹部の直下の運送部と倉庫部の統括マネージャーに配置する体制をとった。

 一方で、A 社を取り巻く課題もいくつか生じてきている。第1 に、大手物流企業を中心とする 3 PL(サードパーティーロジスティックス)事業者との競争が激化してきたことである。 2つ目には、首都圏事業部において「物流の 2024年問題」を背景に外部委託先の運送事業者の人手不足の問題が深刻化してきたことである。 3 つ目には、A 社の専門人材が多様化したが、創業時から人事処遇制度はほとんど変更がなされないままであり、処遇面で不満が出ていることである。また、今後、物流の多様化や複雑化への対応が事業者にとって急務になっている。

 2代目経営者は、今後、A 社が 3 PL 事業者として事業展開を行う上で、中小企業診断士に相談を求めている。

私が感じたこと・コメント
赤字:強み
青字:弱み

(強み・弱みはいったん時制は無視)

物流サービス業からの出題はおそらく初?















協力業者=外注=下請け
協力業者のサービスレベルを一定水準以上にできるのかが問題



経営幹部に役職を与え権限を委譲




定番知識
価格競争回避には差別化集中戦略
・差別化:
 地元顧客のデータを共有、ニーズに応える
 協力業者を厳選
・集中:地域密着
 地元の生産者や食品卸など多様な荷主
⇒地域物流のコーディネーターへ












新規事業起ち上げ

物流について1次試験 運営管理の知識
A社:在庫型センター
他社:通過型センター









新たな引き合い+新しい事業形態















事例Ⅰ頻出の後継登場パターン

トラックなど運送手段と持たずに運送事業を行う運送会社は「貨物利用運送事業者」といいます。







プロジェクトチーム⇒首都圏事業部へ












首都圏事業部:
非効率的だった管理を改善
しかし県内事業部とは連携されず




経営者が代替わり
古い慣習・古い幹部との戦い?









首都圏事業部ではさらに管理を高度化
・2代目の長男登場
 ⇒情報システム構築

Z社「A社に期待して声掛けしたのにイマイチ












わざわざ「独断的」と書いている理由は?






県内事業部はシステムが古い(多分)




2代目(創業者の長女)
 ⇩
経営幹部(2代目を補佐)
 ⇩
2代目の長男(運送部・倉庫部を統括)







課題
・競争が激化
・物流の2024年問題⇒人手不足
・人事制度が旧いまま
・物流多様化、複雑化への対応

第1問 強みと弱みの分析問題(時制注意)(20点)

A 社の 2000 年当時における ⒜強みと ⒝弱みについて、それぞれ30字以内で答えよ。


令和6年の第1問は特にひねったところはなく、普通に強みと弱みを問う問題でした。ただし文字数の指定が30字以内なので無駄なく、優先度が高いものからまとめる必要があります。

この問題は何を書いたらいいか見当もつかないということは無いはずなので、いっそ解くのは最後に回してもいいかもしれません。

解答例:
強み
自社倉庫と保管業務・流通加工により地域顧客ニーズに対応可能。(30字)

弱み
旧態依然の組織管理、非効率な受注管理と新規顧客開拓力の不足。(30字)

第2問 後継者の人事の問題(20点)

なぜ、A 社は、首都圏の市場を開拓するためにプロジェクトチームを組織したのか。また、長女(後の2 代目)をプロジェクトリーダーに任命した狙いは何か。100 字以内で答えよ。

後継者を巡る人事については、割と直近で出題されています。

  • 令和3年 第2問
  • 令和5年 第4問 設問2

この手の問題で完全に解答をパターン化することは無理ですが、大体の場合において

  • 後継者が既に身に着けているノウハウを生かす
  • 後継者に経験を積ませ、育成する

この2つの要素を入れるのは定番(というか鉄板!)だと思います。

なお、過去問に慣れ過ぎていることにより
キタっ!後継者に役職を与えた理由を問う問題だ!
これなら過去問で経験済みだ!
とテンションが上がって
上記①②だけで解答欄を埋めてしまい、「プロジェクトチームを組織した理由」を書くのを忘れないように注意してください。

ちなみに1次試験の知識としてプロジェクトチームを組織するメリットは

  • 既存の組織体制に囚われず、目標達成のために適したメンバーを集められる
  • (リーダーに権限があれば)迅速に意思決定できる

などです。

解答例:
理由は既存組織に囚われない適材適所のメンバーで首都圏の物流需要を取り込むことで、従来のA社が苦手である新規開拓を行う為。狙いは長女の大手物流企業で得たスキルを活かすとともに後継者として育成する為。(98字)

第3問 取引先の意図について考えてみる(20点)

 なぜ、Z 社は A 社に案件を持ちかけたのか。100 字以内で答えよ。

取引先の気の意図を問う問題は、これまであまり無かったかもしれません。

Z社からすると、A社の首都圏や地元での活動ぶりを見たうえで
ぜひ我が社の県内進出のパートナーになっていただきたい!!
…くらいのテンションで期待していたのに、

うなだれるZ社

A社(県内事業部の)
在庫管理など体制が遅れていて
がっかり…

…という感じかと思います。

ということで、解答すべきは可哀そうな(?)Z社が、本来A社に期待していたであろうことです。

解答例:
理由は①首都圏事業での物流システム提案力、受注処理や在庫管理のノウハウを保有②自社倉庫および質の高い協力業者を持ち、地域物流のコーディネーターの役割を果たしている、というA社の特性にZ社が期待した為。(100字)

第4問 3PLと2024年問題について考える(20点)

今後、A 社が 3 PL 事業者となるための事業展開について、以下の設問に答えよ。

設問1
2024 年の創業経営者の助言による配置転換の狙いは何か。80 字以内で答えよ。

設問2
A 社が Z 社との取引関係を強化していくために必要な施策を、100 字以内で助言せよ。

第2問のプロジェクトチームといい、
この設問の2024年問題や3PLといい、
今回の事例Ⅰは1次試験や時事に関する知識を想起できる受験生の方が有利な作りになっている気がします。

設問1:配置転換により解決したいことは?

とりあえず、A社の課題は後継者(長女)がこれまで触れずにきた、県内事業の非効率を改善することです。ただし、それには県内事業の実務を知っている者がサポートする必要があります。

設問1の解答例
狙いは①県内事業を把握する経営幹部により後継者を補佐②首都事業部の受注・在庫管理ノウハウを全社で共有②県内事業部非効率な物流システムを長男により改革、である。(79字)

設問2:がっかりさせてしまったZ社を再度振り向かせるには?

この設問は実質的に第3問の続きと言えます。

つまり、
A社が今度こそZ社の期待を裏切らないようにするにはどうすれば良いか?
という問いです。

設問2の解答例
Z社が求める各店舗の適正在庫管理や機動的な商品補充に対応できる体制を、①人事制度見直しによる専門人材の育成、②首都圏事業部のノウハウを活用、②協力業者との関係強化、により県内事業部で構築する。(96字)


令和6年の事例Ⅰの解説はいったん終了です。

最後まで解いてみてから私が思うのは
長男は、やや独断的
与件文中のこの情報いらなくね、ということです。

独断的な長男

所詮、世の中は結果が全て。
君たちは私の言った通りにすればいい。


今回はここまで。

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