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こんにちは、柴山です。
今回は中小企業診断士の1次試験でも出題されたことのあるマーケティング関連のテーマ、
- 分析麻痺症候群
- マーケティングマイオピア(Marketing Myopia)
について、まとめてみました。ちなみにマイオピア(Myopia)とは”近視眼”という意味です。
まずはウォーミングアップとして、AIに相談しつつイメージイラストを作ってみました。

マーケティングについて
あれこれ分析し過ぎた結果
自ら迷路に迷い込んだ人たち
ということで
真面目に考え過ぎる人こそハマりがちな、分析麻痺症候群とマーケティングマイオピアについて解説、さらにそれを回避するための思考法を紹介してみます。
分析にこだわり過ぎるとハマる罠:分析麻痺症候群
分析麻痺症候群とは、データや情報を分析することばかりにとらわれて、意思決定ができなくなる状態を指します。
特に、選択肢が多すぎる場合や、情報が氾濫している場面では、知らず知らずのうちに陥っていたということが起こり得ます。
具体的には、以下のような状況が考えられます。
- データを集めることに時間をかけすぎて、実行段階に進まない
- 分析結果に固執して机上の空論を追いかける
- 充分データを集めたつもりでも、分野の異なる他の重要な要素を見落とす
そもそも「分析」と「意思決定」は別のプロセス
言うまでもなく、市場調査などのデータをどれだけ収集・分析しても未来を完全に予測できる訳ではありません。
ですのでデータ収集・分析はどこかのタイミングで区切りをつけ、実行するかどうかの決断をしなくてはなりません。
ところが、リスクの評価方法や責任の所在などが明確になっていないと…
- 意思決定の先延ばし: リスクを避けるため、分析を延々と続行
- 不確実性への恐怖: どのデータを見ても「確実」な答えが見つからないため、決断が遅延
- 責任回避: 自ら責任者として積極的な意思決定することを回避
などによって、いつまでたっても意思決定が行われず、段階が進みません。
分析麻痺症候群にハマりやすいタイプとは?

その①
データ分析や、完璧なプレゼン資料作成それ自体に生きがいを見出してしまった人

その②
会議での議論は好きだが、自らの責任で実行フェイズを進めるのは避けたい人
分析麻痺症候群の回避方法は?
ほとんどマーケティング施策では最初から完璧な結果を出すことは困難で、実行しつつPDCAにより改善を繰り返していくのが通例です。
従って以下のような施策が有効です。
- 事前のデータ分析だけにこだわらず、テストマーケティングを実施
- 最初から完璧な結果を求めず、トライアンドエラーが当然の社内文化を作る
- 実行責任者が孤立しないような社内体制づくり
- 挑戦した者が正当に評価される制度づくり
視野が狭いとハマる罠:マーケティングマイオピア
マーケティングマイオピアは、企業が自社の製品やサービスにばかり目を向け、顧客のニーズや市場の変化を見失う状態を指します。
- 製品中心の思考に偏り、顧客の声を無視する。
- 市場のトレンドを把握できず、競合に遅れを取る。
- 短期的な利益を追求し、長期的な戦略を考えない。
この状態に陥ると、競争力を失い、顧客からの信頼を失う危険性があります。
マーケティングマイオピアの好例
様々なマーケティングのテキストにて「分かり易いマーケティングマイオピアの好例」という不名誉な扱いを受けているのがフィルムメーカーのコダックです。
コダックは、写真フィルムという「製品」に固執しすぎたために、デジタル写真技術を自社で開発していたにもかかわらず、本業のフィルム事業を脅かすリスクを恐れて本格的な市場投入に踏み切れませんでした。
その結果、デジタルカメラやスマートフォンの普及により、写真フィルム市場そのものが縮小し、最終的に事業の衰退を招きました。これは、自社の事業を狭い「製品」(モノ)の定義に限定してしまい、時代の変化や顧客の真のニーズ(コト)を見誤った好例(悪例)です。
マーケティングマイオピアにハマりやすいタイプとは?

自社の製品・サービスへの自信と愛情が溢れるあまり、すっかり周囲が見えなくなっている人
マーケティングマイオピアの回避方法は?
上に書いた通り、自社の現状に自信があり過ぎると、顧客ニーズを見失ってしまうことがあります。また、顧客の生の声を知っているのは特定の部署のスタッフだけ、という状態も危険です。
そこでまずは何より、アンケートなどで顧客ニーズを把握する必要があります。重要なのは形式的な調査にとどまらず、自社の製品の想定外の使われ方なども掘り下げて調べること、分かったことについて社内共有を図ることです。
例:とある分譲住宅の場合
- パントリー(食品庫)として作った棚が、子供のおもちゃ置き場に使われていた。
- 生活動線の良さを売りにしていたが、競合他社に見劣りしていた
- 営業部が行ったヒアリング内容が開発部には全く伝わっていなかった
事業ドメインや競合の再定義
事業ドメインとは事業領域と言い換えることができます。大雑把に書くと「会社がどこで、誰に、何を売るか」を定めたもので、これを明確にすることで会社が戦うべき分野や競合が明確になります。
ただし先ほどのコダックの失敗例からも分かる通り、自社の事業を「何を提供しているか」ではなく、「顧客のどのような課題を解決しているか」という視点で再定義しなおすことも、長期的には重要です。
例えば現在の顧客(購入者)だけでなく、自社製品を選ばなかった人たちの声を調査したり、そもそも自社の競合とは一体だれなのか、と改めて考えることも必要です。
例:とあるフィットネスジムの場合
近隣の他のフィットネスジムを競合として想定、絶対に負けないお得な料金プランを用意していた。
ところがジムを解約した顧客にヒアリングしてみたところ、「人気YouTuberが『自宅での自重トレーニングで充分。メニューはAIで作成すればトレーナーも不要』と言っていたので辞めた」という声が複数上がってきた。

知らない間に新しい競合が誕生しているかもしれません。
中小企業診断士1次試験「企業経営理論」平成23年 第1問
ということで中小企業診断士試験の過去問から1題です。受験生でない方は、選択肢ウの正誤が判別できればいったん良いかと思います。
ドメインは全社レベルと事業レベルに分けて考えられるが、ドメインの定義ならびに再定義に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア D.エーベル(Abell )の「顧客層」「顧客機能」「技術」という3次元による事業ドメインの定義では、各次元の「広がり」と「差別化」によってドメインの再定義の選択ができる。
イ 事業ドメインは将来の事業展開をにらんだ研究開発分野のように、企業の活動の成果が外部からは見えず、潜在的な状態にとどまっている範囲も指す。
ウ 自社の製品ラインの範囲で示すような事業ドメインの物理的定義では、事業領域や範囲が狭くなって T.レビット(Levitt)のいう「近視眼的」な定義に陥ってしまうことがしばしば起こる。
エ 全社ドメインの定義によって企業の基本的な性格を確立できるが、製品やサービスで競争者と競う範囲は特定できない。
オ 単一事業を営む場合には製品ラインの広狭にかかわらず事業レベルの定義がそのまま全社レベルの定義となるが、企業環境が変化するためにドメインも一定不変ではない。
各選択肢は書き方が抽象的なため、おおよその意味についてかみ砕いてみました。
- 選択肢アについて
事業ドメインとは「どんな顧客をターゲットにするか」「顧客にどのような利便性を提供するのか」「自社の持つどのような技術を核としてくのか」という3つの要素から考えられ、さらに各要素には広がりや差別化の度合いがある。 - 選択肢イについて
事業ドメインは企業が自社の為に定義するものなので、将来の為に研究開発をスタートしている分野も含まれる - 選択肢ウについて
製品ラインの範囲で事業ドメインを定義する、というのは「我々はフィルムを作って売っているのだから、それすなわち我々の事業領域だ」と考えたコダックの人たちと同じように「近視眼的」な定義をしてしまう可能性が有る - 選択肢エについて
(複数事業を行う企業でも)全社まとめてのドメインを定義することで企業の性格が決まる。が、それだけでは競合と戦う範囲は決まらない - 選択肢オについて
単一事業しか行わない企業にとって、事業ドメインはそのまま全社ドメインを指す。ただし新しい競合他社や競合製品が登場するなど、市場環境が変わるためドメインにも変化はあり得る。
選択肢ウについては見ての通り、解説的な情報を追加してしまいましたので、正しいということは分かると思います。なお、ここでは最も不適切なものを選ぶという設問の主旨により「正解」ではありません。
まとめ:「2つの罠」の共通点と違いとは?
分析麻痺症候群とマーケティングマイオピアは、どちらも意思決定に悪影響を及ぼす点で共通していますが、その原因や影響は異なります。
最後に両者の共通点と違いを表にまとめてみました。
比較 分析麻痺症候群/マーケティングマイオピア
分析麻痺症候群 | マーケティングマイオピア | |
原因 | 過剰なデータ分析 | 製品(モノ)中心の思考 |
影響 | 意思決定の遅延 | 顧客ニーズや機会を見失う |
回避策 | トライアンドエラーを奨励 意思決定の明確なルール | 顧客視点(コト)の重視 ドメインの再定義 |
過去問の正解:エ