こんにちは、柴山です。
唐突ですが、こんな経験はありませんか?
飲食店に行ったところ笑顔で丁寧な接客をしてくれるスタッフに出会い、そのお店のリピーターになる。あるいは、ある企業の製品に興味を持って調べたところ、開発ストーリーに共感して、自分の中でのブランドイメージが一気に上がる。
実は、これらの体験の裏側には、インターナルマーケティングという重要な戦略が隠れています。
インターナルマーケティングとは?
マーケティングというと、企業が広告などの手段を通じて顧客(または見込み客)に働きかける活動が思い浮かぶ方も多いと思いますが、そればかりではありません。
今回テーマとするインターナルマーケティングとは、企業が自社の従業員に対して行うマーケティング活動のことです。簡単に言えば、「社員を大切にする」ための取り組みです。
従業員を「内部顧客」として扱い、その満足度を高めることで、最終的には外部の顧客満足度を向上させる。そんな考え方がインターナルマーケティングの核心です。
なぜインターナルマーケティングが有効なのか?
ここでイメージしてみてください。下記2つの会社とその社員の声があったとします。
A社の社員:
「ウチの会社は福利厚生も充実してるし、社員の意見も積極的に取り入れてくれるし、この先もずっと働きたい!」
B社の社員:
「ウチの会社は残業代は出ないし、理不尽な理由で怒られるし、正直もう転職したい!」
この2社において、社員のモチベーションが高く、顧客への配慮も自然と行き届いていると思われるのは断然A社です。
このように社員の満足度と顧客満足度には深い関係があり、満足度が高い社員は自然と熱意を持って仕事に取り組みます。その熱意は、製品の品質向上やサービスの改善につながり、結果として顧客満足度が上がるのです。
これは「サービスプロフィットチェーン」と呼ばれる考え方で、
従業員満足度(ES)
⇩
顧客満足度(CS)
⇩
利益
という連鎖を説明しています。
インターナルマーケティングの具体例
では、具体的にどんな取り組みがインターナルマーケティングなのかというと、
①社内コミュニケーション・社員の意見を取り入れる仕組み作り
・社内SNSの導入
・提案制度の導入
・定期的な社員満足度調査の実施
②社内教育・研修の充実
・スキルアップのための外部セミナー参加支援
・メンター制度の導入
・資格取得支援
③福利厚生の向上
・フレックスタイム制度の導入
・社員食堂の充実
・在宅勤務・短時間勤務を可能にする
④社内イベントの開催
・社内運動会や文化祭の実施
・社員の家族を招いた職場見学会
・定期的な社員旅行や懇親会の開催
といったことが考えられます。
個人的には、これらに加えて社員が共感できる経営理念、顧客に心から喜ばれる製品やサービスの品質といったものも含まれるのではないかと思います。せっかく働くのであれば、自分の仕事がお客様の、ひいては社会の役に立っている、と実感できた方がモチベーションも上がるというものです。
ちなみに④に関しては日頃からコミュニケーションができていない(≒仲が悪い)職場にも関わらず、「まずイベントありき」で実行してしまうと、参加者が誰も楽しくないという事態になるので要注意です
エンゲージメントって何?
最近では、単なる従業員満足度(ES)だけでなく、エンゲージメントという概念も重要視されています。エンゲージメントとは、従業員が会社や仕事に対して感じる愛着や熱意、絆のことです。
満足しているだけの従業員と、高いエンゲージメントを持つ従業員では、後者の方がより積極的に会社の成長に貢献する傾向があります。
例えば、Google社では、社員が労働時間の20%を自由なプロジェクトに充てられる「20%ルール」を導入しました。これにより、社員のモチベーションが上がり、Gmail や Google News などの革新的な製品開発につながったと言われています。
インターナルマーケティングのメリットとデメリット
とはいえ、インターナルマーケティングは良いことばかりではありません。メリットと合わせてデメリットをまとめると以下のようになります。
メリット
- 従業員満足度の向上
- 顧客満足度の向上
- 生産性の向上
- 離職率の低下
- 企業ブランドの向上
デメリット
- 短期的にはコストがかかる
- 効果の測定が難しい
- 全社的な取り組みが必要で、一部門だけでは効果が限定的
インターナルマーケティングは取り組みを始めてすぐに効果が出るものでは無いので、全社的な、かつ長期的な視点に立って進めていく必要があります。
インターナルマーケティングについてよくある疑問
インターナルマーケティングに対して
社員を甘やかすだけじゃないか
コストがかかりすぎる
といった疑問や批判もあり得ます。
前述のデメリットと合わせて考えると、短期的に見ればコストばかりかかるように見えるかもしれません。
しかし、長期的な視点で見ると、インターナルマーケティングは企業の持続的成長に不可欠です。社員の離職率が下がり、生産性が向上し、顧客満足度が上がれば、結果的に企業の収益性も向上します。
ちなみに私はかつての勤務先で中途採用担当をしていたことがありますが、
リクナビNEXT等に広告掲載(当然、お金がかかる)
↓
応募者の履歴書などを確認
↓
スケジュールを調整して役員面接まで段取
↓
採用決定
↓
PCを準備するなど受け入れ態勢を整える
↓
入社後、社長の方針がコロコロ変わるのに嫌気がさして数か月で退職
…みたいなことを年に何回も繰り返していました。
当然、そこにかかる手間とお金は馬鹿になりません(本当に)。
特にこれからは様々な業界で若手の人手不足が深刻になってくると思いますので、離職率の低下が実現できるだけでもメリットとしては相当に大きいはずです。
中小企業診断士試験 令和2年1次試験 企業経営理論 第37問(設問2)
中小企業診断士試験においてインターナルマーケティングが関係するのは、
・1次試験:企業経営理論
・2次試験:事例Ⅱ
この2つです。
まずは企業経営理論の過去問を1つ。
文中の下線部②に関して、サービス・マーケティングにおいて注目されているサービス・ドミナント・ロジックに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 近年のサービス・ドミナント・ロジックに基づく製品開発においては、他社の技術や部品を採用したり、生産や設計のアウトソーシングを進めたりして、製品の機能やデザイン面の価値を高めることを重視している。
イ サービス化の進展は、サービス・エンカウンターにおいて高度な顧客対応能力を有する従業員の必要性を高めている。しかしながら、売り手と買い手の協業によって生産される価値はサービス財より低いため、製造業においてはインターナル・マーケティングは必要ない。
ウ 製造業では、商品におけるモノとサービスを二極化対比することによって、モノとは異なるサービスの特性を明らかにし、サービスの部分で交換価値を最大化する方向を目指すべきである。
エ 製造業は、製品の使用価値を顧客が能動的に引き出せるようにモノとサービスを融合して価値提案を行うことが望ましい。例えば、顧客に対して、コト消費を加速させる製品の使用方法を教育するイベントを開催したり、その情報を積極的に発信したりすることなどである。
サービスドミナントロジックは価値共創、つまり製品やサービスの価値は企業が一方的に創り出すのではなく、顧客とともに創造していくものだ、という考え方です。
例えば、ある製品が企業の開発意図とは異なる使われ方をしていることが判明した場合、消費者の声をもとにその製品を改良、より消費者にとって価値があるものにしていく、といったことが考えられます。
あくまで消費者にとっての価値を高めることが狙いなので
・モノ消費よりもコト消費
・製品とサービスを一体的に考えて消費者の満足を目指す
ここまで書いてきたことに加えて、以上のサービスドミナントロジックの考え方を当てはめると、
ア 他社ではなく顧客との関わりを考えなくてはいけないので×
イ 製造業でも社員のモチベーションは高い方が良いに決まっているので×
ウ 製品だけ良くてもアフターサービスがダメならダメ。モノとサービスを一体として考え、価値を高めていかなければならないので×
エ 企業と顧客の関係、モノとサービスの関係について正しく書かれているので〇
ということで、正解は エ となります。
過去問解説 平成22年 2次試験 事例Ⅱ 第3問
B 社の現社長は、従業員の能力を引き出すためにインターナル・マーケティングを展開した。実際にどのようなインターナル・マーケティングを行ったのか。50字以内で2つ答えよ。
今度は2次試験 事例Ⅱの過去問です。B社は食品スーパーとなります。
この問題は落ち着いて考えることさえできれば、それほど難しくありません。とはいえ、2次試験本番で落ち着いて考えることが最も難しいと言えるのですが…
与件文を普通に読めば、第3~4段落に解答要素が散りばめられていることは分かると思います。ポイントとしては「50字以内で2つ」答えること。
つまり、いくつも書かれている解答要素を2つのグループに整理して解答してあげる必要があります。ということで解答例です。
グループ①:評価・待遇関係
①透明性のある昇給制度、②正社員への登用制度、を導入し、パート・正社員の区別なく能力を評価した。(48文字)
グループ②:権限移譲&意見尊重
①顧客対応・売り場イベントの権限を現場に委譲、②現場の意見を尊重、によりモチベーション向上させた。(49文字)
余力が有る方は、こちらもチェック!
平成23年 事例Ⅱ 第5問
ここでもインターナルマーケティングが問われています。難易度的には上の問題よりも、こちらの方が高いと思います。
平成25年度 事例Ⅰ 第1問 (設問1)
なぜか事例Ⅰより1問。
うっかりするとインターナルマーケティングの問題に見えなくはないですが、事例Ⅰなので組織・人事の論点から解答しなければならないという、ひねくれた問題です。
この問題の解説は過去記事にありますので良かったらどうぞ。
マーケティングには他にも様々な考え方がある
”〇〇〇〇マーケティング”のような用語はたくさんありますが、中でもインターナルマーケティングと対比される概念として、エクスターナルマーケティング、インタラクティブマーケティングという考え方があります。
エクスターナルマーケティング:
企業が顧客に向けて、つまり対外的に行うマーケティング活動。広告活動など、一般的な「マーケティング」活動といえば大抵これ。
インタラクティブマーケティング:
従業員が顧客に対して行うマーケティング活動。例として小売業やサービス業の店舗でのクロスセル・アップセルを狙った商品説明や店内告知など。ちなみにインタラクティブマーケティングには双方向のマーケティングという意味で使われることもあります。
本来はこれら2つも同じボリュームを割いて説明するべきかもしれませんが、単純に私が大変なのと、中小企業診断士試験を考えるとインターナルマーケティングから押さえておいた方が(多分)間違いないと思いますので、このような記事の構成となりました。
それでは、今回はここまで。