こんにちは、柴山です。
今回は中小企業診断士の2次試験に、初挑戦する方に読んでおいて欲しい記事で、2次試験4科目のうち事例Ⅰ~Ⅲの助言問題の『作法』について扱います。
なお、助言問題ってなに?という方は先に下記記事を読んで頂けると良いかと思います。(助言問題と対になる”分析問題”の解説です)
「究極のアドバイス」は役に立たない
事例Ⅰ~Ⅲについての合格者や予備校の先生のアドバイスで
聞かれたことを答えるだけ
当たり前のことを答えればOK
みたいなことを読んだり聞いたりしたことはないでしょうか?
結論から言ってしまうと、これが究極のアドバイスです。ただし、これは合格する、または合格レベルに近づいてから初めて「あ、そういうことか」と分かってくる類いのアドバイスです。
2次試験の勉強を始めたばかり人が聞いたら
いや、ふざけてないでちゃんとアドバイスしてくれ
と思うのではないでしょうか?
なので、ここでは私なりにもう少し違う角度から解説してみたいと思います。
過去問(R4年 事例Ⅰ)における助言問題
いきなり実際の問題(設問)を引用します。
第1問(配点 20 点)
A 社が株式会社化(法人化)する以前において、同社の強みと弱みを 100 字以内で分析せよ。
第2問(配点 20 点)
A 社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
令和4年度の事例Ⅰの第1問、第2問です。
見ての通り、第1問が分析問題、第2問が助言問題です。受験生は与件文の情報を元に、これら問題を解答していくことになります。
そしておそらく、初めて2次試験にとりかかる際に受験生が思うのは以下のように思うはずです。
強みや弱みを答えるのはまだ分かる。
が、施策について助言って何?
2次試験では、ぱっと見では何を書いて良さそうな設問であっても、点をもらえる解答要素は(あるいは解答の「幅」は)ある程度決まっています。思いつきを書くだけでは合格できないので、まずは書くべきこと・書くべきでないことを理解しておく必要があります。
ちなみに分析問題についてはこちらを参考にしてください。
まずは「落とし穴」回避、2次試験と柔道昇段試験との共通点
以前、私はタキプロのブログで2次試験を柔道の昇段試験に例えたことがあります。2次試験でやってはいけないことを伝える上でなかなか良い例えだと今でも思っているので、改めて表にしてみました。
診断士2次試験と柔道の昇段試験にて、求められていること・いないこと
2次(事例Ⅰ~Ⅲ)助言問題 | 柔道の昇段試験 | |
求められていないこと | 前例のない画期的なアイデア 点のあげようがないアイデア 自分の実務経験だけに基づく施策 中小企業には実現性が低い施策 設問の題意を無視した施策 | オリジナル必殺技を披露 (真・一本背負い、みたいな) 路上のケンカで覚えた実戦技 (いきなり目潰しとか) その他、反則攻撃 |
求められていること | 1次試験の知識に基づいた施策 与件文の情報を活かした施策 中小企業でも実行可能な施策 設問の題意に沿った施策 | 基本に忠実な技術 柔道の正しい知識 ルール・礼儀を守ること などなど、 普通に道場で習ったこと |
上の表(特に右側)は読む人によっては
こいつ、ふざけてんな
と、思うかもしれないですが、全然そんなことは無く、至って真面目な内容です。どのくらい真面目なのか納得して頂く為に、「2次試験・求められていない」の項目を検証してみます。
前例のない画期的なアイデア
点のあげようがないアイデア
自分の実務経験だけに基づく施策
これは
他の誰も書かない斬新な解答を書いてやる!
実務経験者の俺ならではの実践的な解答を書いてやる!
そしたら自分だけ高得点をもらえるはずだ!
という考え方で、2次の勉強を始めた方が最初にハマる落とし穴です。はっきり言って悪手というか不合格の第一歩以外の何物でもありません。
試験の運営側の立場で考えると
◇2次受験生が約1万人いる
◇それに対応するために採点者も複数いる
という条件下でも公平な採点をしなければなりません。
ここでの公平というのは「納得性が高い」とも言い換えることができて、
なんであの人が合格で、こっちは不合格なのか、さっぱり分からん
という事態がなるべく起こらないようになっていることです。
そうなると、
採点者は全員、あらかじめ用意した採点基準に沿って採点せよ
と考えるのが自然ではないでしょうか?
(私は試験の実行委員でもなんでもないですが、普通に考えればそうです)
かといって、
あらゆる全ての解答の可能性を採点基準の中に網羅することなどできないので
◇運営側の誰も想定していない程、画期的な解答
◇その分野の実務経験者でないと正しいのかどうか判定できない解答
などについては、点のつけようがないことになります。
要するに解答を何でもアリにしてしまうと、公平な採点が不可能になってしまうので駄目、ということです。
採点のしようがないアイデアとは?
上に書いたことと同じことですが
例えば人材を確保するために採用の募集をかけるとして
◇CMの女王を起用して広告を出しまくる
という解答に対して、点をあげられるでしょうか?
注目は浴びるかもしれませんが、応募があるかは未知数で、費用に見合った効果があるかはさらに未知数です。しかもこれで入社した人が定着するかどうかも不明です。
では、与件文に下記の情報があったとして
◇食の安全にこだわり、厳選した国産原材料のみ使っている
◇短時間勤務も可能で、男女問わず子育て中でも働きやすい
こういった自社のこだわりや経営理念を前面に出して募集を行い、それに共感した人を採用するならどうでしょう?
この場合は、やたらと広告費用がかかることも無さそうで、かつ入社してきた人は納得の上で応募しているので、定着率も高くなることが期待できそうです。試験解答としても、与件文の情報を使っている以上は、こちらの方が妥当性も高いと言えます。
ということで、与件文の情報を無駄なく生かし、かつ1次試験で学んだ知識や考え方にも合致した解答は点数をもらえる可能性が高く、逆にそうでない解答を書くことはギャンブル性が高いことになります。
この辺のことは既に分かっている人からすれば
こいつ、なに当たり前のこと言ってんだ?
となりますが、少なくとも私が2次試験の勉強し始めの頃にはよく分かっていなかったことです。
なので、過去の自分に向けて書くつもりで、若干しつこく説明してみました。
中小企業にとって実現性が低い施策
2次試験の与件文に登場する事例企業は中小企業です。施策の助言をする場合は、限られた経営資源の範囲内で実現可能な内容であることが必要です。
ということで、与件文中に書かれている
◇経営者や社員が持つスキル、人脈
◇顧客リストなど情報
◇未活用の敷地、店舗スペース
◇地域の特産物
◇提携できそうな地域企業や大学など研究機関
…などなど、有効活用できそうな情報(解答要素)はしっかり使いましょう。
反対に、上にも書いた「CMの女王を起用して広告を出しまくる」といった施策は中小企業の広告予算を超えてしまう可能性が高く、実現性が低いという意味でもアウトになります。
つまり、
◇利用可能な経営資源を活かさない施策
◇実行するには無理がある施策
いずれを書いた場合も得点の可能性は低くなります。
設問の題意を無視した施策
最後に「題意」の話です。
私が最初に「題意」という表現を見かけたのは一発合格道場のブログだった気がしますが、当初は「何だ、それ」と思いました。ちなみに題意の意味をネット辞書で検索すると「出題の意図」とか出てきます。
要は出題者が
受験生に何を答えて欲しくて作った問題なのか
ということで、
これが分かってないと的外れな解答になってしまいます。
ここからフレームワークのことも合わせた解説を書こうと思ったのですが、だいぶ長くなったので今回はいったんここまでにします。この先は事例Ⅰ~Ⅲそれぞれ別の記事にする予定です。
「やってはいけないこと」のまとめ
助言問題を解答するにあたっての注意点は以下の通りです。
- 画期的、独自性が高いといった要素はいらない
- 実務経験者ならではの内容も不要
- 実現性が低いことは書かない
- 強みや経営資源を始めとした、与件文の情報を生かす
- 1次試験で学んだことを生かす
- 題意に沿って解答する
ものすごく単純化して書くと、問題を作成した方々が
こういうことを答えて欲しくて問題を作成したよ!
採点基準にも反映しといたから、あとよろしく!
…みたいに思ったであろうことを解答すれば良いワケです。
(もちろん、それを制限時間内に作成するのは簡単では無いですが)
ということで、今回はここまで。