【2次試験 事例Ⅱ】 「だなどこ」をとことん掘り下げて考えてみる

こんにちは、柴山です。


今回は中小企業診断士 2次試験の事例Ⅱ(マーケティング・流通)助言問題についてです。

事例Ⅱの定番フレームワークといえば「だなどこ」ですが、
「だなどこ」は知ってはいるけど事例Ⅱはイマイチ苦手
という方向きに、「事例Ⅱとは要するに組合せの問題」という視点を提供します。

なお、より入門的な内容として2次試験で「書いてはいけない」ことについては別記事があります。2次の問題にまだ慣れていない方、試験本番をまだ一度も経験していない方は、こちらから先に読んで頂くのがおすすめです。

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念のため確認。「だなどこ」とはなにか?

事例Ⅱ対策として診断士受験生の先人が生み出した叡智が、「だなどこ」フレームワークです。

これは特に助言問題(設問文が「助言せよ」で終わる問題)に対して

  • だ…「誰に」をターゲットとして
  • な…「何を」の商品またはサービスを
  • ど…「どのような方法」で実施し
  • こ…どんな「効果」を得るか

これらを常に意識して解答せよ、
というありがたい教えで、助言問題においては解答要素の抜け漏れを防ぐのに有効です。

架空の解答例:
B社は、食にこだわりのある市内の富裕層向けに(誰に?)、地元産こだわり食材のミールキット宅配サービスを(何を?)、直営店のPOPとSNSで告知することで(どのような方法で?)、売上拡大を図るとともに地域の1次産業振興に貢献する。(どんな効果を?)

こんな形で解答作成をある程度パターン化することにより、時間の限られた本番でも解答を大きく外してしまうことを防ぐことができます。

「だなどこ」は何故有効なのか?

「だなどこ」は試験対策として優秀とはいえ、近年の難化した(ように思える)2次試験に対しては
事例Ⅱといえば「だなどこ」…、
何はなくとも「だなどこ」…、

と意味も分からずにすがりついていては太刀打ちできない可能性があります。

まずは「だなどこ」が何故有効か、そのベースとなっている考え方を整理してみたいと思います。

①競争戦略

まずは1次試験のド定番知識である「競争戦略」です。

  • コスト・リーダーシップ戦略
  • 差別化戦略
  • 集中戦略
  • 差別化集中戦略

それぞれの解説はテキストに載っているので、ここでは事細かく書きません。

2次試験で登場する事例企業は全て中小企業で、かつ、ほとんど(全てといっていいほど)の場合において競合企業よりも規模が小さく設定されています。(特に事例ⅡのB社は規模が小さい場合が多い)

そこで経営資源が限られた中で事業を成功させなければならないので、
B社がいずれの競争戦略をとるべきか?
みたいに問われることはほぼありません。

ほとんどの場合、差別化集中戦略を基本的な考え方として施策を考えることになります。

②3C分析・SWOT分析・4P分析

これも1次試験の知識です。最低限の確認だけします。

3C分析
市場環境を自社(Company)、競合他社(Competitor)、顧客・市場(Customer)の3要素から分析します。

SWOT
自社の状況を強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4要素から分析します。

4P分析
自社のマーケティング戦略について、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)

3C分析やSWOT分析は、第1問で問われることが多いです。競争戦略を実行するためには自社や自社を取り巻く環境を客観的に把握する必要があります。

③STP分析

次にマーケティングにおけるSTP分析です。

  • 市場を「セグメンテーション」(Segmentation)により細分化し
  • 「ターゲティング」(Targeting)により対象顧客を絞り
  • 「ポジショニング」(Positioning)により競合との差別化を図る

3C分析・SWOT分析・4P分析の結果を踏まえ、さらにSTP分析を加えると…

(競合X社は多店舗展開の低価格路線で県内の消費者の支持を得ているから)
ウチは地元農家と協力して原材料にこだわった商品を開発、

通販で全国の富裕層をターゲットにしていこうぜ!

ここまで来れば「だなどこ」のうち「だなど」までの要素はほぼ揃った形となります。

まとめると「だなどこ」というのは、つまり
マーケティングで定番となっている複数の分析手法を、限られた試験時間内に一通り終わらせるために生み出されたフレームワーク
と言えるかと思います。

なお残りの「こ(効果)」の要素については後から述べることにして、先に過去問を紹介します。

過去問解説:令和5年 事例Ⅱ 第3・4問

第3問(20点)
女子の軟式野球チームはメンバーの獲得に苦しんでいる。B 社はメンバーの増員のために協力することになった。そのために B 社が取るべきプロモーションやイベントについて、100 字以内で助言せよ。

第4問(配点30点)
B 社社長は、長期的な売上げを高めるために、ホームページ、SNS、スマートフォンアプリの開発などによるオンライン・コミュニケーションを活用し、関係性の強化を図ろうと考えている。誰にどのような対応をとるべきか、150字以内で助言せよ。

注意すべき点は

第3問で解答すること
B社がとるべきプロモーションやイベント

第4問で解答すること
(B社は)誰にどのような対応をとるべき

当然ながら、第3問の解答として「とるべき」施策を、第4問の解答として書いてしまったらアウトです。

また現実の世界では、ここで問われているようなプロモーションやイベント、コミュニケーション手法は無数に考えられます。しかし合格するためには、採点者に妥当と判断される解答を書かなければなりません。

つまりアイデアとして優れていればOKという訳ではなく、与件文・設問文で与えられた情報や1次試験の知識を生かした解答を作成する必要があります。

第3問・第4問で答えるべき内容を混乱することなく、かつ妥当性がある解答を書くにはどうすれば良いのでしょうか?

そこで「だなどこ」に従い、妥当な組合せを考えてみる

改めてですが

  • 事例Ⅱは与件文が長く情報量が多い
  • 与件文にはB社の商品や強み、ターゲットになりそうな顧客などの解答要素が複数書かれている

このため情報量の多さに振り回されず、どの解答要素をどの設問で使うか、その判断を間違えないことが重要です。

これを間違えると

  • 既存顧客に売るべき商品を新規顧客に売り込む
  • 若い世代向けの販促を高齢者層に実施

などのミスマッチが起きてしまい、場合によっては点をほとんどもらえない(いわゆる大事故)となってしまいます。

ということで上記の設問で使える解答要素の組合せを表形式でまとめてみました。

正しく組み合わせることが肝心

スクロールできます
誰に何をどのように効果使える強み
第3問
(女子メンバー募集)
女子生徒とその保護者を含む地域住民女子向けオリジナルユニフォームやグッズ
体験イベントの開催情報
SNSで発信
女子チームの認知拡大

目的:新規メンバー獲得
オリジナル用品の加工技術
少年野球チームとの関係
第4問
(長期的な売上向上)
少年野球チームのメンバーとその保護者、監督チーム内の連絡チームデータの管理
用具の相談や注文・予約
スマートフォンアプリを開発少年野球チームとの関係性強化

目的:売上拡大
2代目社長の長男のICT知識
少年野球チームとの関係

表中の強みについて
事例企業自体が持っている強みと、他のステークホルダーとの関係性および提携できる可能性などがあります。文字数制限的に全部は書けないと思いますが、解答を書くうえで事例企業が何ができるのかを分かっている必要がありませす。

事例Ⅱで解答を書くことに慣れてくると、
とにかくひたすら「だなどこ」の4要素を揃えて
きれいにまとまった解答文を書こう!

みたいになりがちです。

そうすると、解答文としては一見きれいにまとまっているように見えても、上に書いた「ミスマッチ」のような組合わせの間違いを犯す可能性があるので注意が必要です。

最後の要素、「効果」はどこまで書くべきなのか?

先ほど省略した「こ(効果)」についです。

上の過去問では2つとも、施策の目的(狙い)は設問文で与えられていました。

施策の目的・狙い
・第3問…女子野球のメンバー獲得
・第4問…B社の売上拡大

解答にはこれらを書かなくても良い代わりに、その前段として
・第3問…女子チームの認知拡大
・第4問…少年野球チームとの関係性強化

こういった「効果」を解答要素として盛り込むべきです。
では次のような設問ではどうでしょうか?

平成29年 第4問(配点25点)
B 社は今後、シルバー世代以外のどのセグメントをメイン・ターゲットにし、どのような施策を行うべきか。図を参考に、120 字以内で助言せよ。

この設問では、施策は問われていますが、どのような狙いで実施するかは書かれていません。このような設問に対する解答としては、売上UPなど得られる効果を書くことになります。(あるいは文字数に余裕があれば、その前段となる効果を書いても構いません)

では、なぜ効果をあらためて書かないといけないかといえば…

次の連休にイベントを行いたいんだけど何がいいかな?

貴方が支援先の経営者から、このようにアドバイスを求められたとして…

アドバイス①
事前にチラシをまいてから、〇〇〇というイベントを行いましょう!

アドバイス②
事前にチラシをまいてから、〇〇〇というイベントを行いましょう!
そうすれば●組くらいの来場があって■万円くらいの売上が期待できます。

2つのアドバイスを比べて、どちらが助言として優れているかは明らかだと思います。

①の方には「それで、どうなるの?」が含まれていないので、無責任に聞こえてしまうかもしれません。


ここまでをまとめると、

設問文中に目的・狙いが…
書かれている場合は、その前段となる効果を解答に書く
代表例:認知向上、顧客満足向上、顧客関係性強化

書かれていない場合は、施策によって最終的に得られる効果を書く
代表例:売上拡大、事業の長期的な発展、地域貢献など経営の想いを達成

ということになります。

ターゲットについて記載が無い場合は注意!

もう一度、平成29年 第4問を確認してみます。文字に色を付けた個所に注目してください。

平成29年 第4問(配点25点)
B 社は今後、シルバー世代以外のどのセグメントをメイン・ターゲットにし、どのような施策を行うべきか。図を参考に、120 字以内で助言せよ。

見ての通り設問文中に「どのセグメントをメイン・ターゲットにし~」と書かれています。

わざわざ問われているのに「〇〇をターゲットとして~」と書かない人は(よっぽどあせっていない限り)いないと思います。

では次の問題ではどうでしょう?

令和4年 第2問(配点 20 点)
B 社は、X 県から「地元事業者と協業し、第一次産業を再活性化させ、県の社会経済活動の促進に力を貸してほしい」という依頼を受け、B 社の製造加工技術力を生かして新たな商品開発を行うことにした。商品コンセプトと販路を明確にして、100 字以内で助言せよ。

この過去問では、「商品コンセプトと販路を明確にして」と釘をさされていますが、ターゲット顧客について書くようには指示されていません。

では、ターゲット顧客については解答しなくて良いのかというと…
そんワケねえだろ!!!
というのが事例Ⅱのお約束です。

先に書いた通り、事例Ⅱの与件文の情報量は多く、ターゲットとなりそうな顧客(顧客層)も、ほとんどの場合は複数書かれています。ですので、その中から対象となる顧客が「誰?」なのかを絞り、その顧客のニーズに沿った施策を解答することが必要になります。

顧客ニーズが「だなどこ」各要素をつなぐ

令和4年 第3問(配点 20 点)
アフターコロナを見据えて、B 社は直営の食肉小売店の販売力強化を図りたいと考えている。どのような施策をとればよいか、顧客ターゲットと品揃えの観点から 100字以内で助言せよ。

令和4年から、もう1問です。

今度は「顧客ターゲットと品揃えの観点から」という指示があります。目的は直営の食肉小売店の販売力強化ですので、ターゲット顧客は地域住民となりそうです。

また与件文中には、B社は百貨店やホテルに対して高級食肉を卸売していた実績もあると書かれています。

そこで、
だったら直営店で地域住民を対象に高級食肉セットを売ればいいじゃん!!
と書いてしまうと、いわゆる大事故(大外し)となってしまいます。

なぜなら、地元住民は普段使いできるお店として直営店を利用しています。決して贈答品に使うレベルの高級食材を求めているわけではありません。

あらためて与件文を読めば

料理の楽しさに目覚めた客や、作りたての揚げ物を買い求める客が、食肉専門店の魅力に気づいて足を運ぶようになった結果だった。

顧客が直営店に何を期待しているか書いてありますので、それに沿った施策を解答しなくてはなりません。

与件文から拾ってきた「だなどこ」の要素をいい加減に組み合わせるのではなく、ちゃんと各要素が顧客ニーズを通して一貫した内容となっているか注意する必要があります。

もし試験本番や模試にて、あせってワケが分からなくなりそうな際は
この顧客は、この施策を実施したら
本当に喜んでくれるんだっけ?
(=これって顧客の求めてることだっけ?)


という感じで、顧客ニーズの視点から考えることで、自分の解答を一歩引いて見ることができるかと思います。

事例Ⅱおよび「だなどこ」に慣れてきたら、こちらもどうぞ

事例Ⅱについて、難しいと思われる過去問について2つ記事を作成しています。良かったら参考にしてください。


令和4年の事例Ⅱ。単に「だなどこ」を当てはめるだけでは解答要素が揃わないように思われる問題です。

現時点で最新の令和6年の事例Ⅱです。与件文の長さは歴代最長で、情報処理が大変な問題です。

最後に、あらためてマーケティングの定義を


2024年、日本マーケティング協会によるマーケティングの定義が刷新されました。これは1990年以来、実に34年ぶりのことだそうです。

その定義とは…

(マーケティングとは)
顧客や社会と共に価値を創造し、
その価値を広く浸透させることによって、
ステークホルダーとの関係性を醸成し、
より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

とのことです。

日本マーケティング協会という、いわば “公式” によって定義が変わったということなので、企業経営理論や事例Ⅱの問題にもいずれ影響が出そうです。

ポイントとしては、マーケティングとは単に自社の売上・利益を上げるためだけの活動ではないということで…
「顧客や社会と共に価値を創造」
いわゆる「価値共創」がキーワードかと思います。

ということで、今回はここまで。

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