こんにちは、柴山です。
中小企業診断士 2次試験 事例Ⅰ~Ⅲでは解答する上で
- 与件文の情報をもとに組み立てる
- 設問で指定された条件に従う
- 1次試験の知識を生かす
これらが鉄則です。
反対に与件文には無い情報、つまり自分(受験生)個人のオリジナルな考えを入れてしまった解答を「アイデア解答」と呼び、点を獲得できないダメな解答の代表のように扱うことがあります。
しかし、設問によっては解答を組み立てる上での情報が与件文には見当たらないこともあります。というか、そもそも受験生に提案させることが趣旨となっている設問もあり、
これはもう、
アイデアを書くしかないのでは!?
(ドキドキ…)
という場合も少数ながらあります。
今回は事例Ⅱで、与件文にある情報だけでは答えられない提案型の問題についてまとめてみました。
なお、2次試験の助言問題を解く上で最初に押さえておきたい「やってはいけない」ことについては下記記事を参考にしてください。
令和4年 事例Ⅱ 第4問
第4問(配点 30 点)
B 社社長は、新規事業として、最終消費者へのオンライン販売チャネル開拓に乗り出すつもりである。ただし、コロナ禍で試した大手ネットショッピングモールでの自社単独の食肉販売がうまくいかなかった経験から、オンライン販売事業者との協業によって行うことを考えている。
中小企業診断士に相談したところ、B 社社長は日本政策金融公庫『消費者動向調査』(令和 4 年 1 月)を示された。これによると、家庭での食に関する家事で最も簡便化したい工程は「献立の考案」(29.4 %)、「調理」(19.8 %)、「後片付け」(18.2 %)、「食材の購入」(10.7 %)、「容器等のごみの処分」(8.5 %)、「盛り付け・配膳」(3.3 %)、「特にない」(10.3 %)とのことであった。
B 社はどのようなオンライン販売事業者と協業すべきか、また、この際、協業が長期的に成功するために B 社はどのような提案を行うべきか、150 字以内で助言せよ。
事例Ⅱの設問文としては文字数は最多ではないかと思います。ちなみに私が合格した年の問題であり、かつ時期的にアフターコロナを意識して制作された問題となっています。
まずは設問文で指定された解答条件をチェック
解答として求められているのは
B社が新事業としてやりたいこと
- 最終消費者へのオンライン販売チャネル開拓
- オンライン販売事業者との協業
これを成功させるために検討せねばならない…
- B 社はどのようなオンライン販売事業者と協業すべきか
- B社が協業先にどのような提案をすべきか
…について助言することです。
次に与えられた情報の中から解答要素をチェック
与件文だけでなく、長い長い設問文からも情報を引っ張り出さなくてはいけません。
◇B社長の想いは?(与件文より)
- B 社自身が最終消費者と直接結びつく事業領域を強化
「最終消費者」というのは間違いなく、解答に入れるべきワードになります。
◇B社の新事業のターゲット顧客は?(設問文より)
- 食に関する家事を簡便化したい家庭
◇これら家庭のニーズ(設問文より)
- 献立の提案
- 調理の手間を減らしたい
- 食材の購入の手間を減らしたい
設問文には他にも、後片付けや盛り付け・配膳の手間も減らしたいといった希望もあります。しかし全部を解答に入れようとするのは文字数的にも無理があるので、B社が貢献できそうなポイントを絞るを方が良いと思います。
◇上記ニーズに対して、B社が提供できる商品+付加価値
- 献立の提案(≒レシピ提供)
- 半加工済の商品(ミールキット等)
- 百貨店やホテルとの取引実績
有名観光地の○○ホテルとも取引実績あり!
ご家庭では難しかった△△のメニューがとっても簡単に!
下ごしらえ済み食材セット!!
…てな感じで売り出せば、B社の強みを生かしつつ、顧客ニーズに刺さりそうです。
また、事例Ⅱの定番として安売り路線を採用するよりも、B社の強みを生かして高付加価値化を図りたい、そのためには安価な食材を求めているのではない顧客層との取引を強化したいところです。
ここで「だなどこ」を引っ張り出します
事例Ⅱで定番となっているフレームワークにて、
- だ(誰に)
- な(何を)
- ど(どうやって)
- こ(どんな効果を)
ここまでで抽出した情報を整理します。そうすると
だ(誰に)
食に関する家事を簡便化したい家庭
な(何を)
献立+レシピ提供
半加工済食材のミールキット等
ど(どうやって)
百貨店やホテルとの取引実績で訴求して
???という協業先と提携して
こ(どんな効果を)
最終消費者との関係性を構築し新事業を成功させる
(他に書けるのは高付加価値化、売上拡大など)
ということで、解答要素については既にある程度そろっていることに気付きます。もちろん???の箇所は設問で求められているので、解答から省くことはできません。
さて、ここで思い切って、
???の部分って、
実は大して重要ではないのでは?
という仮説を立ててみます。
ここで少し脱線して事例Ⅲの話
事例Ⅲでは最後の1問で今後の経営戦略を2択で問うてくる場合があります。
例:
- 令和5年 第5問:妥当 VS 妥当でない
- 令和3年 第4問:高級路線 VS 標準化路線
- 平成28年 第4問:高付加価値化 VS 野菜パック
例によって2次試験の正解は公表されないので厳密には不明なものの、あれこれ情報を拾ってみると2択のいずれを選んでも、辻褄のあった(論理的な)解答をすれば点はもらえるし、合格もできるというのが診断士界隈の定説のようです。
詳しくは下の記事(後半)をどうぞ。
この考え方の延長、と言って良いか分かりませんが、上記???の部分が何であれ、
- B社の強みを生かし
- 顧客ニーズにマッチし
- 社長の想い(最終消費者と結びつく)と合致
という条件を満たし、筋が通った解答であれば、ある程度の点はもらえるというか、点がもらえないワケは無いはずです。
なぜなら、???の部分自体に重きを置いた採点基準にしてしまったら、
問題点①
販売・流通・マーケテイングの実務経験者が有利な試験になってしまう
問題点②
採点する側も販売・流通・マーケテイングに詳しくなければならない(少なくとも解答の優劣を判別できるほどに)
ということで、合格発表と同時にクレーム殺到の地獄絵図になってしまうので、そんなことはできないはずです。
つまり、この設問は
どのようなオンライン販売事業者と協業すべきか
などと言っておきながら、実はB社の強みと顧客ニーズ、社長の想いを踏まえた解答ができるのかを問うているワケです。なので、その解答の中で辻褄が合ってさえいれば、協業先???については、そこまでシビアには問われないのではないのでしょうか。
反対に???をどうするかに気を取られ過ぎ、B社の強みや顧客ニーズ、社長の想いをないがしろにした解答を書いてしまうと、いわゆる大事故になってしまうのだと思います。
落とし穴が1つ、ぽっかり空いているので注意
では、どのような業者と協業するかですが、大きく分けて2つの方向性があります。
- 与件文に登場済みの業者
- 与件文に登場しない業者
普通に考えて、2次試験の解答として王道は①のはずです。ですが、ネットで解答例を検索してみると②が多数派で、私もこちらが妥当だと思います。
与件文にはない協業先を助言(提案)するというのは本来リスキーなはずですが、ここまで繰り返し書いてきた「論理的」、または「辻褄が合った」解答にするには、そうせざるを得ないです。
何故なら、B社はネット通販事業にチャレンジしたが成果があがらなかったことが与件文に書かれています。ということは協業すべき相手はネット通販のノウハウを持っていることが必須です。
与件文に登場するスーパーや百貨店にそういったノウハウがあるとは書かれていません。ということは彼らと協業しようものなら、B社と共倒れになってしまう可能性が大。
これでは過去にハマった落とし穴に再度ハマるようなものです。
なぜ、過去の失敗に学ばなかったのか…
つまり協業すべきは、B社の弱みを補いつつ、強みを生かしてくれる業者ということになります。
ということで解答例です
食にこだわりがある家庭向けに販売実績があるオンライン販売業者と協業、B社の百貨店やホテルとの取引実績で訴求しつつ、レシピ付き半加工済のミールキットを販売することを提案する。これにより食に関する家事を簡便化したいニーズに応えつつ、最終消費者との関係性を構築することで、B社の新事業を高付加価値化する。(149字)
ネット上にある解答例では「家庭向けに定期配送をしているオンライン販売事業者」というのも複数ありました。
定期配送のニーズは与件文には書かれていないものの、単発の配送よりも顧客との関係性を築ける可能性が高いので、そちらも有望な解答要素だと思います。
ということで、上の解答例の下線部分をそっくり入れ替えてみました。これでも解答は普通に成り立つ、ということはやはり、下線部以外の部分でB社の強みや顧客ニーズをきちんと踏まえているのがキモということです。
家庭向けに定期配送をしているオンライン販売事業者と協業、B社の百貨店やホテルとの取引実績で訴求しつつ、レシピ付き半加工済のミールキットを販売することを提案する。これにより食に関する家事を簡便化したいニーズに応えつつ、最終消費者との関係性を構築することで、B社の新事業を高付加価値化する。(143字)
結論:アイデアを求めている ”フリ” をしているだけの問題?
今回は解答にアイデアというか提案を求めている(ように思われる)問題を取り上げてみました。こうして分析してみてみると、一見アイデア解答を誘っているようでいて、実はそこには重点を置いていないということが分かります。
限られた試験時間でそこまで冷静に分析するのは正直しんどいですが、それができれば他の受験生に対してのアドバンテージが得られるのではないでしょうか。
同様のパターンは平成27年の事例Ⅱでも見られます。既に令和7年の試験に向けて始動している方は、ぜひ解いてみてください。
ということで、今回はここまで。