【2次試験 事例Ⅲ 製造業がピンとこない方向け】困った奴らを『全体最適化』する話

こんにちは、柴山です。

今回は中小企業診断士の2次試験、事例Ⅲ(生産・技術)についてです。

事例Ⅲの典型的な出題は、
◇第1問:分析問題(○○について分析せよ)
 ⇒事例企業C社の強みの分析など
◇第2~4問:助言問題(○○について助言せよ)

 ⇒現状で抱えている課題の解決など
◇第5問:助言問題 (同上)

 ⇒新規事業展開など未来に向けた経営戦略

こんな感じです。

今回の助言問題の解説では、いわゆるフレームワーク的な視点も取り入れつつ、事例企業C社が上手くいかない原因となっている「困った奴ら」を登場させてみました。

製造業の経験が無いので
事例Ⅲの世界は

イメージしにくいんだけど…

という方のお役に立てば幸いです。
(なお私も製造業の経験は無いです)

なお、2次試験の助言問題を解く上で一番最初に押さえておきたい「やってはいけない」ことについては下記記事を参考にしてください。

INDEX

事例Ⅲの一般的なフレームワークはこんな感じ

時間の限られた試験本番において、素の自分の思考力だけで戦うのは限界があります。そこである程度、思考の型を決めてかかった方が時間的な効率が良かろう、というのがフレームワークの考え方です。(私なりの解釈)

ということで、事例Ⅲのフレームワークとしては以下のような枠組みが一般的です。これらの観点を意識しながら解答を作成することで、抜け漏れを無くす効果があります。

生産効率を問われたら生産管理を問われたらIT化を問われたら
作業効率
・外段取化
・シングル段取
・作業の標準化
・マニュアル化
・社内教育
(OJT・外部セミナーなど)
5S
ECRS
SLP
多能工化
生産計画
在庫管理
工程管理
進捗管理
品質管理
設備管理
外注管理
余力管理
D:データベース構築
R:リアルタイム化
I:一元管理
N:ネットワーク化
K:共有化
(頭文字を取って通称DRINK)

その他に常に意識しておかないといけないこととして、C社(事例企業)が行っている生産形態が次のうちいずれに該当するのか、ということがあります。

  • 受注生産 OR 見込生産
  • 少品種大量生産 OR 多品種少量生産 OR 個別生産
  • ロット生産 OR 連続生産

これらの各生産形態ごとの留意点は1次試験のテキストを参照してください。
(例:見込生産は需要予測と在庫管理が大事、など)

またC社は製品ごとに複数の生産形態を採っており、それが生産現場の混乱につながっている、という場合もあり得ます。その場合はどの製品がどれに当たるのか、慎重に確認しながら解答を作る必要があります。

過去問での助言問題の例

さっそく過去問です。何故か文末に「~助言せよ」と付いてないですが、内容的には助言問題です。
なお、ここでは例として取り上げるだけで解答まで導いたりはしません。

令和2年 第2問(配点 40 点)
C 社の大きな悩みとなっている納期遅延について、以下の設問に答えよ。

(設問 1 )
C 社の営業部門で生じている⒜問題点と⒝その対応策について、それぞれ 60 字以内で述べよ。

(設問 2 )
C 社の製造部門で生じている⒜問題点と⒝その対応策について、それぞれ 60 字以内で述べよ。

事例Ⅲで特徴的なのは、「生産・技術」を問う事例といいながら、営業面組織面についての出題がちょくちょくあることです。

私の疑問:やればいいと分かっていることを何故やらないのか?

事例Ⅲの助言問題(ラスト1問を除く)では、生産効率・生産管理・IT化の3要素の視点から助言をするのが典型的です。

ただ、私が受験生時代に気になったのが…、

  • 令和2年のように営業面についても問われると、上記3要素だけでは解答を作成できない。
  • 生産効率UPも生産管理もIT化も、さっさと実施した方がいいに決まっているのに、なぜ課題として蓄積されているのか納得いかない
    ⇒課題が無いと出題できないので仕方ないですが、製造業の経験が無い者にとっては「なんでこんな(与件文のような)状況になるのだろう、ということがピンときませんでした。

そこでC社の内部、各部門の人々の気持ちを勝手にイメージしてみることにしました。

C社の「中の人」(仮)の言い分を聞いてみる

事例企業C社に次のような方たちがいたとします。

営業部長Aさんの主張(売上至上主義)

  • 他社より安く、短納期で、高品質であることをアピールして受注獲得したい
  • 急ぎの注文や小ロット、試作品製作など、面倒な案件でも受注したい
  • 先方との打ち合わせは早目に切り上げ、とっとと製造部門に渡してしまいたい
    ⇒そしたら自分は次の商談に行ける
  • 納期遅れや品質不良のせいでクレームとかマジ勘弁

工場長Bさんの主張(生産効率の鬼)

  • 時間あたり、作業員1人あたりの生産効率を高めたい
  • 効率が上がるように同じ製品を専用ラインで作りまくりたい
  • 小ロットや試作品の生産は段取替えが面倒くさいのでヤダ
    ⇒生産ラインを止めるとか、やってられん
  • 設備をフル稼働させたい都合上、材料・部品の仕入れや在庫の増加はやむなし
  • 若手の教育に時間をかけたくないので、技術は見て盗んで欲しい

製造部長Cさんの主張(生産管理こそ我が命)

  • QCD管理こそ製造業の要(かなめ)
  • オーダー通りの納期・品質となるよう生産したい
  • 必要以上に原材料を仕入れたり、在庫が増加するのは避けたい
  • 生産計画を一度立てたら変更することなく、その通りに生産したい
  • 「これは急ぎの注文だから先に作ってくれ」とか、営業はふざけんな
  • 「ロットの都合で作り過ぎちゃった」とか、工場はふざけんな

これ以外にも設計部門が登場する過去問もあった気がしますが、話が長くなるのでここでは省略します。

読んでもらえば分かりますが、この困った奴ら(失礼)の主張は互いに矛盾しあっています。

現実の企業でも、課題はうすうす分かっているのに放置されてしまうことがあるのは、こういった部門間での対立があるのではないでしょうか?

もちろん、だからといってこんな状態を放置していたら会社はいずれ潰れてしまいます。経営者はあの手この手を使って、全体として上手くいくように調整しなくてはいけません。

また事例Ⅲのテーマは「生産・技術」なのになぜ営業面が時々問われるのかと言えば、調整を図らなければならないのは製造工程だけでなく、受注~納品までの全過程だからと考えれば納得がいきます。

ということで、
受注~納品までの全過程において全体最適化を図ること
これが事例Ⅲの真の主題なのではないか、そう考えた時に私の頭の中はスッキリした気がしました。

経営者が言いたいこと(仮)を代弁してみた

ここで、経営者の気持ちになってC社各部門の困った奴らに言いたいことをぶつけるとすると、下記のようになるかと思います。

営業部長に対して

  • 安さではなくウチの技術、製品の品質や顧客対応とか、強みでアピールしろ!
  • 企画提案で差別化しろ!でないと価格で大手に負けるぞ!
  • イレギュラーなオーダーが入ったら製造部長や工場長とちゃんと打合せしろ!丸投げすんな!
  • タブレットかノートPC持参で先方と打合せするとか、随時データを共有する工夫をしろ!ITを使え!
  • 必要なら技術に詳しい製造部スタッフに営業同行してもらえ!技術的なことの勉強を怠るな!

工場長に対しては

  • 段取替えが面倒だからって同じものばっかり作ってないで、小ロットや試作品も喜んで作れ!
  • ロットの都合だけで受注分以上に作ったりすんな!カレーじゃないんだから「作り過ぎちゃった…」じゃねえよ!
  • とりあえず段取作業を見直して多品種少量生産に対応しろ!
  • 若手に教えるのも仕事のうちに決まってんだろ!作業手順を標準化してマニュアルも作れ
  • 今いる若手を生産ラインのどこでも使えるよう、多能工化しろ!

製造部長に対しては…

  • イレギュラーな注文があるのは仕方ないからマメに営業と打ち合わせしろ!その都度、生産計画を見直せ!
  • 生産計画建てるだけでなく、進捗や品質も管理しろ!必要なら専任の担当者を置け!
  • 仕入れや在庫管理を工場側に任せっぱなしにすんな!製造部として管理しろ!

こうして並べてみると、事例Ⅲの解答で求められる論点がかなり揃っているのではないかと思います。
(社長も大変だ)

社長は言いたい!!
お前ら面倒くさいとか言わず、
ちゃんとやれ!
あと、打合せを密にするなり
ITで情報共有するなりで意思疎通しろ!

誰かが仕切らないと話が進まない場合もある

実際の出題では与件文に
各部門のやりたいことがバラバラ、
おまけに互いに仲が悪い

会議では怒号が飛び交う
といったことが明記されることはありません。

しかし、というかだからこそ、上記のような登場人物を思い浮かべた方が事例Ⅲの世界をイメージしやすいはずです。反対にフレームワークだけでC社を理解しようとすると、製造業の経験が無い人にとっては無味乾燥過ぎてイメージしづらいのではないでしょうか?

また現実の企業でも、上のC社のように各部門の言い分が相反しており、仲が悪いということは普通にあるはずです。

ではそういった際にどうやって改善するのか?

部門間でのコミュニケーションも重要ですが、最終的には権限を持った者が仕切らないと事態はなかなか改善されないのではないかと思います。

そこで事業を統括する責任者を任命したり、重要業務には選任を置いたりなど、受注~納品を完結するために事例Ⅰ的な組織の問題が持ち上がってくるわけです。

こうして俯瞰してみると、事例Ⅲは「生産・技術」だけではないハイブリッド問題ということもできます。

  • 売上ノルマがある営業の立場
  • 生産効率を重んじる立場
  • 生産管理を実行する立場
  • なんとか全体最適化したい経営者

それぞれに都合があることが分かれば、過去問をひたすら繰り返してもいまいちピンと来なかった事例Ⅲの世界がつかめてくるのではないかと思います。

ラスト1問は経営戦略の話

ラスト1問はこれまでと一転、今後の事業展開について問うてきます。

2択は出たら、実はラッキーなのかもしれない

令和3年 第4問(配点 30 点)
C 社社長は、直営店事業を展開する上で、自社ブランド製品を熟練職人の手作りで高級感を出すか、それとも若手職人も含めた分業化と標準化を進めて自社ブランド製品のアイテム数を増やすか、悩んでいる。
C 社の経営資源を有効に活用し、最大の効果を得るためには、どちらを選び、どのように対応するべきか、中小企業診断士として 140 字以内で助言せよ。

令和5年 第5問(配点 30 点)

 食品スーパー X 社と共同で行っている総菜製品の新規事業について、C 社社長は
現在の生産能力では対応が難しいと考えており、工場敷地内に工場を増築し、専用生
産設備を導入し、新規採用者を中心とした生産体制の構築を目指そうとしている。こ
C 社社長の構想について、その妥当性とその理由、またその際の留意点をどのよ
うに助言するか、140 字以内で述べよ。

事例Ⅲの後半戦で特徴的なのは、解答の方向性で2択を迫ってくることがあることです。ただ、この場合はどちらの方向性を選んでも加点はあるようなので、考えてみればラッキーなのかもしれません。

なぜなら「今後の事業展開について助言せよ」という、いわばフリー解答を求められるよりも、設問側で解答の方向性を与えてくれている方が考える要素が少ないとも言えるからです。

この場合の注意点は、与えられた方向性いずれを選んでも(過去問を見る限りは)大丈夫なので

  • 何故その結論となったのか論理的な解答にする
  • 他の設問で解答した内容とも整合性を持たせる

要するに、辻褄があってればOKです。
逆に言うと、例えば第1問で「●●が強み、○○が弱み」と解答しておきながら、それと全然かみあってない方向性を書いてはいけないということになります。

フリー解答ではアイデアを書かず、普通のことを書く

令和2年 第4問(配点 20 点)
C 社社長は、付加価値の高いモニュメント製品事業の拡大を戦略に位置付けている。モニュメント製品事業の充実、拡大をどのように行うべきか、中小企業診断士として 120 字以内で助言せよ。

私が2次試験で落ちた年の問題です。(翌年は1次からやり直しになりました)

この時、私はC社がやっているモニュメント製品事業と、もう一つ別の「デザインを伴うビル建築用金属製品」事業を合体、「都市型建築を行う企業への提案営業をする」みたいなことを解答した記憶があります。

一応、与件文の情報を使ってはいるものの、両事業を求めるクライアントが存在するかも不明なので、やっぱり駄目な解答です。

では「OKな解答」は何かというと、なるべく普通の事でそつなくまとめた解答のことです。
普通というのは…

ごく普通の下記のような項目
①現状のネックを解決
②強みとなる技術等を強化
③強みを生かして受注拡大するんだぜ、みたいな営業方針
④組織的に有効なこと、できること

これを設問で問われているC社のモニュメント事業に当てはめると、
①工場レイアウトや作業スペース見直し
②社内教育で全チームが高度な加工に対応できるようにする
③鏡面仕上げなど技術力や製作実績で訴求
④納期遅延防止のためにモニュメント事業専任の生産管理担当者を置く
→これらで事業を拡大する

普通の解答要素が揃いました。

普通過ぎて面白くもなんともないですが、その分、採点する側の人からすれば点をあげざるを得ないはずです。事例Ⅲについて解説した他のブログ等を見ても、

聞かれたことに答えるだけ!
当たり前のことを書け!

みたいなことが、他の事例以上にあちこちで書かれています。ということで事例Ⅲの、特に最後の設問では与件文から離れずに普通のことを書くように努めてください。

最後に、アイデア解答の定義を考えてみた

試験で点が取れない、アイデア解答
アイデアとしては面白いし、もしかしたらアリなのかもしれないが、有効かどうかはやってみないと分からない施策

試験で点が取れる、普通の解答
たとえ死ぬほどつまらなくとも、実行すればほぼ間違いなく効果がある施策

考えてみれば、実際に中小企業を支援する場でアイデア解答的な助言をするということは、経営者にイチかバチかのギャンブル的な選択を迫ることになります。

そんな危険な助言をするのは診断士として実績を積んでからでいいから、まずは普通の(間違いがない)アドバイスができるようになれ!というのが、診断士試験の意図なのかもしれません。

ということで、今回はここまで。

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