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こんにちは、柴山です。
「失言した政治家をSNSで叩いてやった」
「飲食店でオーダーを忘れた店員に怒鳴ってやった」
「職場でミスした部下を30分間立たせたまま説教してやった」
世の中には、こういった形で怒りを発散させる人がいます。

なんべん言えば分かるんだ、お前は!
…的に、部下を叱りつける人
たとえ言っている内容自体は間違いではなかったとしても、その様子を傍から見ると
この人、他人に怒りをぶつけることで気持ちよくなっているのでは
という場合も多々あり、それが職場における部下への態度となると、かなり問題です。
今回は他人に怒りをぶつけて気持ち良くなる現象を
「怒りポルノ」
「怒り中毒」
と呼ぶことにし、それがあなたの「上司力」に与える影響について考えてみます。
※こういった呼称自体は他でも使われているので、私のオリジナルという訳ではありません。
「怒り」が快感に化ける仕組みとは?
社会人になると、日常生活の中で誰かに怒りを感じたとしても、それをそのまま相手にぶつけることはほとんどないはずです。
ですが特定の状況で怒りを相手にぶつけることができた時に、「スッキリした」「気分が良い」と感じた経験はないでしょうか?
「特定の状況」というのは主に以下のような場合です。
- 相手が職場における部下など、こちらの方が明らかに強い立場
- SNSの匿名アカウントからの投稿で、自分が傷つく心配がない
そして、この「怒りに伴う快感」には、人間の心のメカニズムが関係しています。
自分の力を実感することで得られる優越感
上に書いたような、相手に怒りをぶつけることができる、一方的に批判できるという状況は、それ自体が、「自分の方が力を持っている」という優越感をもたらします。
社会的な動物である人間にとって、自分が相手より優位な立場にあることを実感できることは、ある種の快感をもたらします。
なお優越感については以下の記事もご覧ください。

相手を萎縮させることで満たされる支配欲
怒りに酔っている上司と、その部下の会話例(⇒クリックすると開きます)
上司: (報告書を叩きつけながら) なんだこれは!こんな体たらくでよく報告に来れたな!
田中: 申し訳ございません、私の確認不足で…。
上司: (声を荒げて) 確認不足だと?貴様はこれまで何を学んできたんだ!こんなミス、新入社員でもしないぞ!
色々な話題を行ったり来たりしつつ、30分経過
(上司は部下を睨みつけ語気を強める。部下の萎縮した様子を見て満足した様子)
上司:いいか、自分の責任で始末をつけろ。次にこんなことがあったら、ただでは済まさなからな!
田中:はい、必ず挽回いたします。
周囲の人たち:(あの説教の仕方、絶対に自分に酔ってるよな・・・)
このような状況で相手が萎縮したり謝罪したりするのを見ると、支配欲求やコントロール欲求を満たされます。
またSNSで他人を批判した結果、相手が投稿を削除したりアカウントを閉鎖するのを見ても
「相手を屈服させた・相手に勝った」
という感覚に浸ることができるかもしれません。
こういった感覚は、特に普段から自信の無さを抱えている人にとっては、強い誘惑になり得ます。
さらに、
「自分は上司としてちゃんと責任を果たしている」
「自分は正しいことをしている」
と感じる(思い込む)ことができれば、自己肯定感や承認欲求が満たされる感覚も同時に味わうことができるかもしれません。

俺は正しい、俺はエライ
…と、自分で思い込んでいる人
気持ち良くなるために怒る=「怒りポルノ」?
このような快感が病みつきになると、
怒ることで快感を得たい、だから怒る
のように、それ自体が目的になってしまいます。
一時期、チャリティー番組などが「感動ポルノ」と批判されたことがありました。怒りによって快楽を得ることも、同様に目的化しているのであれば「怒りポルノ」とも呼んで差し支えないと思います。
怒ってないと気が済まない「怒り中毒」とは?
怒りをぶつけることで得られる快感に文字通り病みつきになってしまうと
常に何かに怒っていないと気が済まない
という、まるで依存症のように「怒りのネタ」を常に求める状態になってしまいます。これが「怒り中毒」です。
上司がこの状態になってしまうと、部下を始めとした周囲の人はたまったものではありません。
些細なミスを見つけては怒りをまき散らし、優越感と支配欲を満たそうとするので、周囲の人々は強いストレスにさらされます。

「怒りのネタ」を求めて徘徊する上司は、東京湾から上陸して暴れまわる怪獣のようです。
こうなってしまうと、チーム全体が委縮、積極性を失ってしまうのも時間の問題です。
例外:怒りが原動力になる場合もある
ただし、怒りには社会を変えるような強力な原動力となる側面もあります。
例えば、戦争や環境破壊などに対する「怒り」が、改革への行動を促したり、より良い社会を目指すエネルギーになったりすることもあります。
「怒りポルノ」や「怒り中毒」の源泉は、快楽のための独善的な怒りなので、こういった場合の怒りとは区別して考えるべきだと思います。
ただし、本人は「正義の為」と思っている(思い込んでいる)としても、傍から見ると自分に酔っているようにしか見えない場合もあり、その区別は明確ではないかもしれません。
その時、脳の中では何が起こっているのか?
怒りによって他者を攻撃することで快感を得てしまうのはなぜでしょうか。私は脳や生理学の専門家ではありませんが、調べてみたところによると…
怒りを発散し相手を支配することで、人の脳内の「報酬系」と呼ばれる神経回路が活性化される。
このときドーパミンなどの脳内物質が分泌され、強い快感をもたらす。この快感にはアルコールやギャンブル、薬物と同じように中毒性・依存性があり、機会を捉えて怒りを発散することを繰り返す。
こういった仕組みが働いているようです。より詳しく知りたい方は、専門家による解説記事も読んでみてください。
「怒りポルノ」「怒り中毒」に陥らないには?
あなたが上司の立場にあるとして、「怒りポルノ」「怒り中毒」に陥らない為にはどうすれば良いのでしょうか?
最初の第一歩は、人間には怒りをぶつけることで支配欲、優越感、承認欲求を満たそうとする性質があることを知ることです。知ることで、自分の中にあるそういった感情・欲望に自覚的になり、自制心が働きやすくなります。
つまり、この記事をここまで読んで頂いた方は、すでに第一歩目をある程度クリアしているはずです。
前提:上司の思っている以上に、部下は上司の振る舞いを観察している
部下の立場からすると、上司は自分の人生の少なくとも一部を左右し得る存在です。従って部下の人たちは、あなた(上司)の振る舞いを、あなたが思っている以上に注意深く観察しています。
さらに、あなたの部下、飲食店などの店員、あるいは家族(子ども)などが決して愚かな存在ではない、ということも考えておくべきです。
もしあなたが、指導や躾という大義名分のもとで怒りをぶつける快感に酔っているのだとしたら、それは周囲の人にはとっく見透かされている可能性が非常に高いです。

怒る上司と、それを見透かす部下の構図
こうした状況は、あなたが本来持っていたはずの「上司力」を著しく低下させ、周囲との信頼関係を破壊します。
一時の快感のために長期的な人間関係や自身の評価を犠牲にしていないか、一度立ち止まって考えてみることが重要です。
アンガーコントロールと「5秒ルール」
あなたが、上に書いたような「怒りをぶつける快感に酔っている」ほどの酷い状態でないとしても、部下のミスなどで怒りを抑えられないことは度々あるかもしれません。
怒りの感情に振り回されて人間関係を壊さないために、怒りを上手にコントロールするアンガーコントロールの技術を身につけることが有効です。
- 怒りの感情が湧いてきたら、まず5秒間待つ
- この5秒の間に「なぜ今、自分は怒っているのか?」と自問自答する
- これを習慣化し、怒りの感情を客観視する訓練をする
繰り返しになりますが、あなたの振る舞いを部下たちはしっかり見ています。怒りの快感に酔うことが習慣化しないよう、日頃からアンガーコントロールを意識しましょう。
自ら怒りを増幅する「反芻思考」とは?
過去の嫌な出来事を何度も繰り返し思い出し、それによって怒りや憎しみなど負の感情を増幅させてしまうことを「反芻思考」と言います。
反芻思考に陥った人の心の中の例(⇒クリックすると開きます)
昨日の商談で、断られたのに納得がいかない。
なんであんな言い方されなきゃいけないんだ。
どうせなら、こう言い返してやれば良かった。
同席していたのに、ろくにフォローしようとしなかった課長にも腹が立つ。
ああ、思い出すだけでまたムカついてきた。
明日、どんな顔して会社に行けばいいんだ。また何か言われるんじゃないか。もう嫌だ。本当にムカつく…。
このように思いだす度に、あるいは思い出すことでますます腹が立つ、という経験がある方も多いはずです。
反芻思考について理解することは、アンガーコントロールの上でも大切です。
①まずは自分の反芻思考に気づく
頭の中で同じ怒りのシナリオを何度も再生していることに気づいたら、「ああ、また反芻しているな」と認識することがスタートラインです。これにより怒りの感情と自分自身を切り離し、一歩引いて客観視することができます。
②注意をそらす
反芻思考に気づいたら、意識的に注意を別のことに向けます。以下のような行動が効果的です。
・深呼吸
・部屋の掃除など、手と頭を使う単純作業に集中してみる
・別の部屋に移動したり散歩に外出するなど、環境を変える
③原因と向き合う
反芻思考が落ち着いたら、なぜその出来事が怒りを引き起こしたのか、その根本原因を冷静に分析します。
・何に対して腹がたったか?
・なぜ腹が立ったのか?(例:期待を裏切られた、軽視されていると感じた)
このように過程を経ることで、感情的な思考から論理的な思考へとシフトし、反芻思考のサイクルを断ち切るきっかけとなります。
SNS炎上と「怒りポルノ・怒り中毒」
近年、SNSで特定の個人や企業が炎上し、不特定多数の人間が匿名で攻撃に加わる現象が頻繁に見られます。
近年の炎上事例
- 高校野球の強豪チームでの暴力事件と隠ぺい
- 大手飲食チェーンで、アルバイト従業員が不衛生な行為を投稿
- エイプリルフール企画の行き過ぎ、ふざけ過ぎ
この現象にはSNSの匿名性に加えて、怒りを発散させたい気持ちと密接な関係がありそうです。

怒りの発散と正義のヒーロー
SNSでは、匿名性によって他者を攻撃することへのハードルが下がります。
問題を起こした相手を、怒りに任せて強い言葉で非難することは、まるで悪者を裁く正義のヒーローになったかのような優越感をもたらします。
こういった快感を求めて、常に非難する相手を探しているような状態となると、まごうことなき「怒り中毒」です。
SNSでの炎上には承認欲求も関係
SNSで話題の事件の当事者を叩くと、多くのインプレッションや「いいね」を得やすく、承認欲求を手軽に満たす手段となり得ます。
しかし、SNSでの他者叩きには、相手の尊厳に深刻なダメージを与えてしまったり、その結果として訴えられたりする危険性があります。
自らの一時的な欲求を満たすためだけに、自分や他人の生活を壊すリスクを冒すべきではないでしょう。
まとめ:「上司力」の根本はEQ
怒りに流されやすい上司は、部下の心の問題に関与する以前に、自信の無さなど心の奥底にある不安に気づいていない可能性が高いです。
とはいえ自信を深めたり、自己肯定感を高めることは一朝一夕で出来ることではありません。

が、それでも他人に怒りをぶつけたくなった時に
「いかん、今の俺は部下に怒りをぶつけることで、自分の承認欲求や自己肯定感を満たそうとしてる」
…のように一瞬でも(一秒でも)自分を振り返ることができるようになれれば、それはEQ(心の知能指数)の向上だと言えます。

一見すると自信満々!
でも本当は自信の無さを隠すための擬態かも?
部下をマネジメントする能力はもちろん重要ですが、まずは自分の感情をマネジメントすることが「上司力」向上の第一歩です。
ということで、今回はここまで。
今回記事の続編はこちらです。
