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こんにちは、柴山です。
今回はタイトルの通り「責任と権限」についてです。後半には中小企業診断士試験の過去問について若干の解説があります。
株式会社とある商事での出来事

社長
佐藤さん!
うちの会社の公式HPをリニューアルすることにした。君が責任者として進めてくれ!
予算の範囲内であれば、デザインや機能などは君に任せる!

マーケティング部 佐藤:
承知しました!
数か月後、会議の場にて

佐藤:
部内および外部専門家などと打ち合わせた結果、A案で進めたいと思います!理由はこれこれで、社長にも事前にご確認頂いてます。

社長:
うむ。

古参社員ズ:
いやA案だと、新製品の告知がイマイチ目立たないな。
社長には申し訳ないですが、B案をもとにさらに○○を加えて、うんぬんかんぬん…
会議後…

社長
すまないな、佐藤さん。
なんとか古参社員たちのOKを取ってから進めてくれ。

担当者:佐藤
えぇ…、
私は責任者のはずなのに、決定権ないんですか?
(これでは責任者というより、ただの「調整役」なのでは?)
上記はざっくりと単純化した例です。とはいえ似たようなことは、どこにでもあるかと思います。
「責任と権限の原則」とは?
経営・マネジメントの理論に「責任と権限の原則」というものがあります。
これは「職務上の責任を果たすためには、それに見合った権限が付与されなければならない」(責任の大きさ=権限の大きさ)という考え方です。
責任はあっても権限が無いとどうなる?
上の例の佐藤さんのように、名目上は責任者でも実質的な決定権がない場合…
- 関係各所の合意を得ないと進まないので、やたら時間がかかる
- 関係者の意見を折衷した結果、コンセプトなどが中途半端になってしまう
- 全体最適化がされない・そもそもの目的を見失ってしまう
ホームページ制作での例:様々な意見をもれなく採用した結果、新製品の告知は目立つものの、定番商品の情報がどこにあるのか分からない、ユーザー目線を無視したものになってしまった、など
こういった問題が発生します。
このため意見を出し尽くすためのプロセスは必要であっても、どの意見を採用するか、または採用しないかについては誰に決定権があるか明確にしておくべきです。(複数人で決定する場合も含めて)
権限はあっても責任が無いとどうなる?
この場合は上の例での「古参社員」がそれに当たります。
極端に言えば…

オレは口は出すけど責任はとらないよ。
だって担当者でも何でもないし!
という超・身勝手な状態です。
これは本来の担当者が持っているべき権限の一部または全部を、別の誰かが不当に持ってしまっている、とも言えます。
責任>権限でも、責任<権限でもなく「釣り合っている」ことが重要
仕事をきっちり進める上で責任と権限が一致していることの重要性は、ここまで読んで頂いた方には伝わったかと思います。あるいは職務上の権限がどうあるべきか、日頃から考えている方には周知のことかもしれません。
ただ、現実の企業、特に中小企業においては「マネジメント」の考えが希薄なため、部下に責任だけ負わせて権限は与えない、ということが往々に起こります。
そこで考えるべき「権限の委譲」とは?
部下に権限を与えることを「権限の委譲」と言います。
これは目先の案件の成否だけでなく、部下のモチベーションにも大きく影響します。
例えば、

経営者:
ウチの会社の社員は自主性に欠ける。
いつも受身だ。
こういった声を上げる前に考えて頂きたいのが
そもそも自主性を期待する以前に、部下に権限を与えているか?
という点です。
ここで言う「権限」とは「裁量」と言い換えても差し支えありません。なんでもかんでも無制限に裁量を与える必要はありませんが、
○○に関しては事前承認が必要だが、
△△は予算の範囲内であれば事後承認で可
…のように、たとえ制限付きであっても、どこまで部下が自分で決定して良いのかが明確になっていればOKです。
こういった権限の委譲が行われていれば、社員の自主性およびモチベーションのアップにつながり、将来的な成長も期待できます。
「権限の委譲」は明確でなければならない
重要なのは、誰に何の責任と権限があるのか、曖昧ではダメという点です。議事録その他で公式に残しておく必要があります。
ここが曖昧だと、担当者に任せたはずの仕事に対して口を出した挙句、

上司:
言いたいことは言ったし
あとは任せたからよろしく
(俺はもう帰るから)
このような「気まぐれ」で口を出す、無責任ムーブもアリになってしまいます。これは部下からすれば非常にやりづらい状態です。
そこで、上司がどうしても特定の案件に関して自分も関わりたい、そうでないと不安だというのであれば、
この件に関しては私も責任者だ!(ドヤァ)
ということを明確にすべきです。
責任と権限は一致すべき、の例外パターン
部下の自主的な行動を促し、組織の発展につなげたいと考える場合に
責任は負わせるが、権限なんぞやらん!
ここまで書いた通り、これは駄目パターンです。
これに対して
君には責任者になってもらう!
そして目的を果たすために必要な権限を与える!
これが「責任と権限の原則」に沿った、王道パターンです。
これとは異なるパターンとして
今回のプロジェクトは君に任せた!
責任は私が取るから、存分に実力を発揮してくれ給え!
というのもあり得ます。
最後のは原則に反するじゃないか、とも思えますが、責任を強調することにより部下が委縮することを防ぐ上では有効です。
ちなみに私は自分のキャリアの中で…

責任はオレが取る!(キリッ!)
このように発言する上司は見たことはありません。フィクションの世界ではこういった人物もちょくちょく登場しますが、実在するのでしょうか?(反対に責任から逃げまくりの上司は何人も見たことがあります)
もし読者の皆さんの上司がこういう責任感の塊のような方であれば、ぜひ日頃から敬意を払い、感謝の意を伝えておきましょう。(これは本当にそう)
ワンマン経営はダメなのか?
ここまでは将来に向けて部下および会社の成長につながる「責任と権限」について考えてきました。
しかし創業期や経営再建の真っ只中など、将来ではなく目の前の業績が最重要な場合もあります。また、現場のスタッフはいても管理職を任せられる人材がいない場合もあり得ます。
そういった場合は、経営者が権限と責任の両方を担う、いわゆるワンマン体制が築かれることになります。
つまり状況により
ワンマン体制=ダメ
ということではありません。
ただし、会社が大きくなるにつれてワンマン体制では目が行き届かないこと増えていきます。いずれは部下に権限を委譲しつつ、その成長を促進していかなければならない時期が来るのではないでしょうか。
番外編:公務員の責任について考えてみた
ここで職務に伴う責任を考えるうえで、公務員にまつわる制度(国家賠償法)について取り上げてみます。
国家賠償法第1条では、公務員が職務の執行にあたって故意や過失により他人に損害を与えた場合でも、その賠償責任は個人ではなく国や自治体が負うと定められています。
この法律により、災害時の公務員の誘導に問題があった場合などでも、公務員は個人としては責任を負わないことになります。
これを聞いて、
責任を負わないなんで(文字通り)無責任じゃないか!
公務員は不当に優遇されている!!
と思う方もいるかもしれません。
が、法律でこのように決まっていなければ、自衛隊や消防、警察などの方が災害の現場にて
後から責任を追及されないよう、とりあえずマニュアル通りに無難に動いとこう
という心理が働いてしまう可能性があります。
このような心理を考えると、各々が現場で最善な行動を取るためには、個人としての責任を追及されないという制度が有効に働くと思われます。
中小企業診断士1次試験「企業経営理論」平成28年 第17問
ここで中小企業診断士の過去問をピックアップします。まずは1次試験からです。
企業は比較的規模が小さい創業段階から成長して規模が大きくなるためには、一般に成長段階に応じて異なる経営上の課題を解決していかなければならない。組織の成長段階と克服すべき課題や有効性に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア 企業が多数の機能部門を持つような規模に成長すると、経営者は次第に業務的決定から離れ、規則や手続きを整備し官僚制的な組織構造を構築する必要が生じる。
イ 強力なリーダーシップを持つ企業家によって設立された企業は、必要な資源を獲得するために資本家や顧客、労働者、供給業者などから正当性を獲得する必要がある。
ウ 創業段階を経て環境との安定的な関係の構築に成功した企業では、経営者は非公式なコミュニケーションを通じた統制から、次第に権限を委譲しつつ、公式の統制システムを構築しなければならない。
エ 組織の公式化が進み官僚制の逆機能が顕在化した段階では、公式の権限に依拠した規則や手続きをより詳細に設計しなければならない。
オ 単一製品・単一機能で創業した小規模企業が、経営資源を有効に活用するために垂直統合戦略を採用した場合、集権的な機能別組織へ移行する必要がある。
1次試験の7科目のうち、「企業経営理論」の問題文は抽象的で意味が捉えづらいという特徴があります。が、この問題は試験勉強をしたことがない方でも、比較的解答しやすいと思います。
各選択肢の内容をかみくだくと、おおよそ以下のようになります。
- ア:企業は大きくなるにつれて経営者の目が届かなくなるので、組織として業務を進めなくてはならなくなる。組織化のためにはルール(規則や手続き)が必要
- イ:経営者のリーダーシップで創業された企業は、出資者・顧客・労働者からの信頼を獲得する必要がある
- ウ:ある程度、成長した企業は非公式なコミュニケーション(創業メンバー同士の以心伝心)から脱却、権限の委譲を進め、公式の統制システム(=指示系統)を持たなくてはならない
- エ:会社が大きくなって「お役所仕事」の傾向が出てきた場合、規則や手続きをさらに厳格にしなければならない
- オ:1種類の商品のみ扱う小規模企業が仕入れ先企業(または販売先企業)を買収・統合した ⇒ 限られた人材などを活かすために機能別組織に再編成すべき
この記事をここまで読んで頂いた方で、かつ診断士受験生以外の方であれば、ウの内容が正しいことが理解できれば十分です。
この問題では不適切な選択肢を選ばなければならないので、正解はエです。これは予備知識が無くても、日本語の問題としてある程度は見当がつくかと思います。
なお、イとオの選択肢の意味がとりづらいですが、受験生以外の方は気にしなくても結構です。
中小企業診断士2次試験「事例Ⅰ」令和4年 第4問(設問2)
A 社の今後の戦略展開にあたって、以下の設問に答えよ。
(設問 1 )略
(設問 2 )現経営者は、今後 5 年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
与件文は長いので省略しました。公式サイト(こちら)にて確認してください。
ここでは現経営者が後継者に事業を承継していく上で、どのように新体制を作っていくかが問われています。
もし問題文が、
現経営者が、今後 5 年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制を作る上でどのようなことをすべきか?
これだけだったとするとかなり解答が難しいですが、「権限移譲や人員配置」というキーワードが加えられていることにより、解答の方向性が限定されています。(オレンジの下線部同士を比べてください)
この問題で登場する「後継者」は創業者の親族の娘で、創業当時からこの会社(A社)に在籍していたわけではありません。現時点ではA社の事業の全てを把握している訳では無い代わりに、商品開発など従来のA社にはないノウハウを持っています。
この後継者を中心とした新体制を作る上で何をしたら良いのか、というのが解答すべき内容となります。
解答例
行うべき施策は、①後継者に実務経験をさせてA社の全事業を把握させる②A社の事業を把握している人材を部門長など配置して経営をサポートさせる③後継者の実績に応じて段階的に権限を委譲する、である。(96字)
上記はあくまで例です。解答例は他にも検索すれば受験生支援のブログなどたくさん出てきますので、そちらも参考にしてください。
大切なのは、解答文をまとめる前段階として、この問題では何が問われているか(同時に何を書いてはいけないか)が整理できていることです。
まとめ:「創業時の人間関係の延長」ではいずれ限界がくる
ずっと以前に芸能人の方がテレビで
私の田舎では中学時代の人間関係(誰が誰よりエライとか)がずっと続いている
と言っていました。おそらく半分は冗談、半分は本音だったと思います。
私は、同様の事が中小企業の社内の人間関係にも言えるのではないかと考えています。
どういうことかと言うと…
- 創業メンバーは昔からの知り合い
- 創業直後は役職とか関係なく、各自が出来ることをやってなんとか乗り切ってきた
- その後、会社は大きくなったが制度(責任、権限、規則など)は曖昧なまま
- 未だに会社は創業メンバー同士の人間関係・信頼関係を基盤として動いている
こういう会社は結構多いのではないでしょうか?
ですが、こういった曖昧な人間関係の延長では後から入ってきた社員の理解は得られません。
組織が大きくなり、経営者の目が細部まで届かなくても機能するためには、組織構造(機能別組織、事業部制組織など)や役割分担、あるいは今回解説した責任や権限について、いずれ考えざるを得ません。
このうち組織構造について考えるのは結構な大事ですのでいったんこのままとして、責任と権限が適切かどうかから考えてみるのはどうでしょうか?これが若手社員のモチベーションに与える影響は、決して小さくないはずです。
ということで、今回はここまで。
中小企業診断士 試験対策について(⇒クリックすると開きます)
時間的・地理的な制約を受ける通学講座はいったん除外するとして、独学と通信講座それぞれのメリットは以下のようになります。
独学のメリット
自分のペースで勉強できるのが最大のメリットです。
特に2次試験において、自分なりの解答プロセス構築にじっくりと取り組めるメリットがあります。
通信講座利用のメリット
①質問することができる
②スマホアプリを使って学習できる
③2次を意識した1次の学習ができる
④2次試験の添削を受けることができる
⇒2次の独学にありがちな独りよがりの解答を防げます。
反面、受身になってしまうことで自分なりの工夫・試行錯誤がおろそかになる可能性があります。
過去問について:1次・2次共通で中小企業診断士協会の公式サイトからダウンロードできます。
⇒こちら
解答について:1次のみ公式サイトで正解が公開されています。
⇒こちら(最新年度のみ別ページです)
私が使った2次対策テキスト(⇒クリックすると開きます)
以下は私が実際に使った中で、合格への貢献度が大きかったと思われるテキストです。2025年7月時点での最新または準最新版のリンクをまとめました。
なお、2次試験テキストの特徴として、
①1次試験終了後には品薄になるので早めの購入が必要
②1次試験とは異なり必ずしも最新版を毎年購入する必要はない
(最新知識を問われる訳ではないため)
なお過去問は中小企業診断士協会の公式サイトからダウンロードできます。
⇒こちら
【ふぞろいシリーズ】(事例Ⅰ~Ⅳ)
2次試験対策として必須なのが「ふぞろいな合格答案」、通称「ふぞろい」です。
2次試験では公式から正解が発表されることはありません。そこで各年の受験生の実際の解答(正確には再現答案)を元に、何が加点要素となったかを分析することで合格への道標としています。
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【全知識&全ノウハウ】(事例Ⅳ)
2次試験に初めて挑む方は、事例Ⅳ対策として1度はやっておいた方が良いです。
毎年出版されますが、内容の変更箇所はそれほど多くないので毎回購入まではしなくて良いと思います。
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【意思決定会計講義ノート】(事例Ⅳ)
通称「イケカコ」です。そもそも中小企業診断士試験用に制作されたテキストではなく、かつ解説が分かりづらいので、2次試験2回目以降の方向きだと思います。
一方、事例Ⅳで過去にないタイプの出題がされた際、実は類題がここに載ってた、ということが度々あります。
(これについては最新版とかは特にありません)