こんにちは、柴山です。
今回はコーチングについての続き、質問とフィードバックです。
前回記事で、クライアントの話に対して安易な決めつけをせず、慎重に聴くことの大切さについて書きました。
とはいっても、ひたすら聴いているだけではコーチングは進みません。コーチ側からクライアントに投げかけていくアクションが必要となります。
質問では何を問うべきなのか?
とあるコーチングのセッション(対話)の事例を作ってみました。クライアントは今後のキャリアプランに悩んでいる人を想定しています。
クライアント:はい、現在の仕事にやりがいを感じられず、転職を考えているのですが、どの方向に進むべきか迷っています。
コーチ:なるほど、キャリアの方向性に悩んでいるのですね。現在の仕事で、特にやりがいを感じられない部分はどのようなところですか?
クライアント:そうですね…毎日同じような作業の繰り返しにしか思えないんです。
コーチ:仕事について感じていることは、他にもありますか?
クライアント:付け加えると、このまま同じことをしていては成長できないと感じています。
コーチ:日々の業務に変化がなく、成長の実感が得られないことがやりがいを感じられない要因なのですね。(フィードバック)それでは、逆に今までの経験の中で、最もやりがいを感じた瞬間はどんな時でしたか?
クライアント:そうですね…以前、新しいプロジェクトを任されて、チームをリードする機会があったんです。大変でしたが、達成感がありました。
コーチ:新しい挑戦とリーダーシップの経験が、あなたにやりがいをもたらしたようですね。(フィードバック)その経験から、自分にとって重要だと気づいたことは何かありますか?
クライアント:そうですね…自分で考えて行動する機会と、他の人と協力して何かを作り上げることが大切だと感じました。
コーチ:自主性と協働作業が、あなたのモチベーションに大きく関わっているように聞こえます。(フィードバック)これらの要素を含む仕事や役割について、どのようなイメージがありますか?
クライアント:うーん…プロジェクトマネージャーのような仕事でしょうか。でも、そのためには新しいスキルが必要かもしれません。
コーチ:プロジェクトマネージャーという具体的なイメージが浮かんできましたね。新しいスキルの必要性も認識されています。(フィードバック)そのために、どのような準備や行動が考えられますか?
クライアント:そうですね…まずは必要なスキルについて調べて、オンラインコースなどで学んでみようと思います。
コーチ:具体的な行動計画が出てきましたね。自己啓発への意欲が感じられます。(フィードバック)この計画を実行に移す上で、どのようなサポートがあれば良いと思いますか?
質問⇒返答⇒フィードバックの流れ
この会話例でコーチがしていることは、クライアントへの質問を通して
- 悩みや現在感じていることを明確化・具体化
いきなり転職の話を進めるのではなく、仕事にやりがいを感じられない現状を掘り下げています。
さらに「毎日同じような作業の繰り返しにしか思えない」という返答に対して、「他にもありますか?」と尋ねることで、クライアントが感じていることを残らず抽出するよう努めています。 - これまでに、どんな仕事でやりがいを感じられたかを確認
現状とは反対に、クライアントがやりがいを感じられた経験を探っています。これを尋ねることなく転職先の話をしてもノーヒントの手探り状態です。転職するにしても、現在の職場で違う道を探すにしても、クライアントの中にしかないヒントを見つける必要があります。 - クライアントの回答からやりがいにつながった要素をフィードバック
クライアントの回答を元に「新しい挑戦とリーダーシップ」がやりがいを感じられる要素ではないか、と投げかけを行っています。コーチの考えを押し付けるのではなく、あくまでクライアントが提供した情報に基づいたフィードバックであることに注意してください。 - どのような職種が向いているか、クライアント自身の思考を促す
再度、質問を行うことで「プロダクトマネージャーを目指す」という目標をクライアント自身の中から発見しました。目標ができたことにより、新しい学びが必要であることをクライアント自身が自覚しているのも重要ポイントです。
答えに至る過程が大事
ここでもし、貴方がクライアントの悩みとそれに対する最適解を最短時間で察してしまえる「天才コーチ」だったとして、セッション開始後10秒でいきなりクライアントに
貴方はプロダクトマネージャーを目指すべきです!
そのために学ぶべきことはこれとこれで…
と熱く語りかけてしまったらどうでしょう?その場合、結論としては正しくとも、クライアントが納得できるかは別問題です。
人は他人から答えを押し付けられたり、それに従うよう強制されると著しくモチベーションが下がります。(そもそも上の会話例のクライアントは「自主性」を重んじる方です)
そもそも実際には我々は「天才コーチ」ではないので、相手の胸中を10秒で察することなどできません。これらを考えた時、コーチの役割はクライアントの中にある答え(あるいは答えの種)をクライアントと一緒に探すものだ、とらえるべきだと思います。
「Iメッセージ」と「Youメッセージ」
コーチからクライアントにフィードバックする際に限らず、人への伝え方には「Iメッセージ」と「Youメッセージ」があるとされています。
Youメッセージ:
Iメッセージとは反対に主語を「あなた」にして表現する方法
例:
①貴方は報告が遅い
②貴方は人の話を聞いていない
③貴方は残業が多すぎる
Iメッセージ:
話し手自身の感情や考えを主語「私」を使って表現する方法
例:
①貴方の報告が遅いと、私が○○の理由で困ります。
②貴方は私の話を聞いていないように思えます。
③貴方が残業が多いことで体調を崩さないか、私は心配です。
コーチングでは相手との関係性を維持しながらのコミュニケーションが求められます。
ところが「貴方は~」で始まるYouメッセージでは、相手に対して断定してしまうように感じられる場合があります。クライアントによっては拒否反応を起こしてしまい、セッションの継続が不可能になってしまうかもしれません。
そこで適切なタイミングでIメッセージを使うことにより、相手の警戒心を高めることなく一歩踏み込んだ質問やフィードバックが可能となります。
なお、これはIメッセージがYouメッセージより常に優れているということではありません。Iメッセージは柔らかい表現になりやすいため、重要な内容が相手に十分伝わらない可能性があります。
そのため場合によってはYouメッセージによりクライアントの問題を客観的な事実として指摘したり、明確な指示・依頼として伝える必要もあります。
コーチングの難しさとは
ということで、コーチングを成立させるためには1つ質問、1つのフィードバックを投げかけるだけでも、あれこれと配慮が必要です。
私自身もまだまだ学びの途中ですが、学んだ内容を整理する上でも、こうした記事を時々アップしていきたいと思います。
ということで、今回はここまで。