こんにちは、柴山です。
自動車など、高額なものを買うときに以下のようなことはないでしょうか?
購入前に商品ホームページ、カタログ、レビューサイト、SNSを入念にチェック
↓
だいたいのことは頭に入っているのに、さらに何度もチェック
↓
下手するとショップの人より詳しくなっているのに、さらにさらに更新情報を探して毎日のようにネットをチェック
↓
やっと購入
↓
購入してからも、ダメ押しとばかりにSNSやレビューサイトをチェック、後から出た新製品が自分が買ったものより評価が低いのを見て安心したりする
どうしてこんな行動するのかというと、お金を使ってしまうことを自分で自分に納得させたいからです。
こんな風に、自分で自分に言い訳をするような心理状態について説明するのが、今回のテーマである「認知的不協和」です。このテーマは生活の様々な場面と関係があり、以下のよう方に是非おすすめです。
今回記事はこんな方におすすめ
- 今晩ラーメンを食べようか迷っている人
- 儲け話(もうけばなし)に乗っかろうかどうか迷っている人
- 「あの人も悪気はなかったんだから」と自分に言い聞かせるのに疲れた人
- 「なんでアイツは言い訳ばかりするんだろ」とか、いつも思っている人
- その他、人の矛盾する言動について心理的理由を知りたい人
- 中小企業診断士 1次試験 企業経営理論に出てくる「認知的不協和」がいまいちピンとこない人(過去問解説あり)
中小企業診断士の過去問解説については、興味が無い人は読み飛ばしてもらって構いません。その部分は読まなくても「認知的不協和」の理解には影響がない構成になっています。
認知的不協和:「自分の気持ちに折り合いをつけたい」という心理
認知的不協和(cognitive dissonance)とは、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが1957年に提唱した概念です。提唱者の名前をとって「フェスティンガー理論」と呼んだりもします。
彼は「人は、行動と信念が矛盾したときに不快感(不協和)を感じ、それを解消しようとする」と主張しました。
例として…
認定的不協和の状態にある人が、思いがちなこと
- 暴力を振るうパートナーに対して「でも優しいところもあるし」
- タバコをやめられないことに対して、「喫煙者でも長生きした人はいる」
- ブラック企業で働き続けることに対して「みんな我慢してるし、転職してもうまくいきっこない」
このように考えることで、人は自分の中の矛盾した気持ちを納得させようとします。
ラーメンは体に悪いことを知った人が取るべき行動とは?
もう少し心の動きを分析してみます。
例えば、あなたはラーメン大好きだとします。ですが、ある日テレビの健康番組でラーメンは塩分過多、カロリー過多で健康に悪いことを知ってしまいました。
知ってしまった以上、もう過去には戻れません。あなたは自分に折り合いをつける必要に迫られます。
- 行動を変える:ラーメンは健康に悪いから食べるのをやめる
- 認知を変える:オールドメディアのいうことなど信じてたまるか
- 認知を正当化する:ラーメンは体に悪いが、そのあとでカレーを食べればカロリーはゼロになる
上記いずれでも自分を納得させることができない場合は、
ラーメンは体に悪いらしいが、
スープを飲まなければ大丈夫!
という現実的な妥協点を見つけたり、
あるいは
今日の俺は仕事で頑張った!
少しぐらい自分を甘やかしても許される!
と、「ラーメンは体に悪い」という最初の論点をあえて無視するという、掟破りの強行突破を行うことになります。
騙されたのではなく、騙した?
また別の例で、心の動きを分析してみます。
頭脳明晰なAさんがいたとします。
Aさんは日頃から「世の中には自分の知らないところで、大儲けしている人がいる。いつか自分のところにも儲け話が来るはずだ。来なきゃおかしい」と思っていたとします。なお頭脳明晰な人がそんなことを考えるのか、という点はいったんおいておきます。
そんなある日、とうとうAさんは酒場で儲け話を聞きました。この時のAさんの心境は
- この話が本当だったらいいな
- この話にはおかしいところがある
という、矛盾した2つの思いの間で揺れ動きます。
元々そういう話を期待していたAさんは、その願望の強さのあまり
最終的に
いや、この話は本当だ。
おかしいと思ったいくつかの点は説明がつく
例えば、○○は××で…
みたいな感じで、自らの中にある「信じる自分」が「疑う自分」を論破、説得してしまいます。
この時、第三者的な視点でAさんを観察するなら、Aさんは詐欺にだまされたというよりも「自分で自分をだました」(自己欺瞞=じこぎまん)ということになります。
つまりAさんは「頭が良いのに詐欺師に騙された(失敗)」のではなく、「頭が良いから自分を騙すのに成功(?)した」というわけです。
ちなみに、「人が信じたいものを信じる」という心境については以下の記事も参考にしてみてください。

認知的不協和がもたらすメリットと落とし穴
では、この認知的不協和が悪いものなのか、といえばそうは言いきれない部分もあります。だいたいにおいて、人間の心のメカニズムは一見すると悪いものに見えても、実は自分の心を守ること(心理的防衛)に役立っていた、ということが多いです。
認知的不協和についてもこれが当てはまります。例えば、購入してしまった自動車について「やっぱり○○の方が良かったかも」といつまでも悩み続けるよりも、「これで良かった」と納得した方がストレスも回避できて健全です。
似たようなことは、就職先、結婚相手などにも言えます。
とはいえ認知的不協和が強く働き過ぎると、
- 人に騙されるなど、失敗したのに反省しない
- 距離を取るべき相手に対して「あの人も悪気があるわけじゃないし」と、ずるずる関係を続けてしまう
自分の心との折り合いをあまりにも見事につけ過ぎてしまった結果、改めた方が良い行動についても「これで良かった」と納得してしまうことになります。(自己正当化)
さらにひどくなると、
あの人も悪気があるわけじゃないし
に加えて
だって、こんな素敵な思い出もたくさんあるし
…のように自らの記憶を改ざん(記憶改変)してしまうこともあるそうです。これも自己欺瞞の一種です。
あえて自分と折り合わない、メタ認知とは
そうなると次のテーマは自分の心の中にある認知的不協和と、どう付き合っていくかという話になります。
例えば、
自分に対して
- 矛盾や違和感を感じた時に、適当な理由ですぐに「これで良いんだ」と納得してしまわない
- 世の中の出来事について「○○が悪い」のように短絡的に決めつけるのをやめる
他人に対して
- 辻褄が合わない言い訳をしている人に対して、「あ、この人は今、自分を納得させようとしているんだな」と温かい目で見守る。
こんな感じで、すぐ手が届くところにある答えで納得するフリをやめて、気になっている矛盾や違和感についてじっくり考えてみる、つまり自分を一歩引いた視点で俯瞰するようなメタ認知が効果的といわれています。
メタ認知の例1:
「自分へのご褒美」で贅沢品を買おうとする前に
⇩
どうせ「自分へのご褒美」なら、長い目で見て自分にプラスになるものを買った方が良いのでは…
メタ認知の例2:
会議で自分の意見に批判的だった人に対して
⇩
スゲー腹立つ!!揚げ足取りばっかしやがって! …だけど、よく考えてみたらもっともな部分もあったかも(言い方は気に入らないけど)
ちなみに私がメタ認知を完璧にできるとか言うつもりは全くありません。(念のため)
メタ認知では、自分に対しても他人に対しても安易に「これで良いんだ」と結論づけてしまわない分、今までよりも深く考えなくてはなりません。そのため、これはある種しんどい選択だと言えます。
それでも、特に部下を持つ立場の人にとって、こういったことを心がけるのはプラスになると思います。なぜなら「言ってること」と「やってること」で矛盾が有る人と無い人、どちらが部下の信頼を勝ち取るかといえば、圧倒的に後者だと思われるからです。

認知的不協和とマーケティング
さて、モノやサービスを販売する側からすると、顧客の認知的不協和は無視できないポイントになります。
例1:
食べながらやせる、新感覚○○〇ダイエット!
食べたい、でも太りたくない という心理を狙い撃ちにしています。
例2:
●月〇日までにお申し込みの方限定!代金半額!!
「あの話題の△△が期間限定価格でお得に買えたんだから」という理由で、客側が納得しやすくなります。
例3:
あのフォロワー500万人のYouTuberが激推し!
「○○さんのおすすめだから買ってみよう!」という心理に加えて、
「買っみたらイマイチだったけど、○○さんがおすすめしているぐらいだから、たまたま自分には合わなかったんだ、マイナス評価はしないでおこう」みたいな受け取り方にもつながります。
これらの施策は様々な意図で行われるので、別に認知的不協和だけを狙ったものではありません。それでも顧客がお金を使うことについて、自分で自分を納得(説得)させやすくなるという効果を持ちます。
中小企業診断士 平成27年度 1次試験 企業経営理論 第31問
ここで、唐突ですが中小企業診断士の試験問題です。診断士受験に興味が無い方でも、ここまで読んだ方なら楽勝で解けると思いますので、チャレンジしてみてください。
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
人は、一般的に、自分にとって最良と思われる商品を購入する。しかし、購入後に「本当にこの選択でよかったのか」、「迷ったもうひとつの商品のほうがよかったのではないか」と思い悩むことは、決して珍しいことではない。購入した商品は最良と思う一方で、他の商品のほうがよかったのではないかとも考える。人は、こうした2つの認識の矛盾から、心理的な緊張を高める。
(設問1)
文中の下線部の「心理的な緊張」状態を表す語句として、最も適切なものはどれか。
ア サイコグラフィックス
イ 認知的不協和
ウ バラエティシーキング
エ ブランドスイッチング
(設問2)
文中の下線部の「心理的な緊張」状態に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア この状態が生じると、好ましい情報を求めて、当該企業のホームページや広告を見る傾向がある。
イ この状態が生じると、当該購買行動が非常に重要な出来事であったかのように過大に感じる。
ウ この状態は関与が低くブランド間知覚差異が小さいと生じやすい。
エ この状態は信頼財よりも探索財や経験財において生じやすい。
※解答はこの記事の最後にあります。
結論:認知的不協和からは誰も逃れられない
結局のところ、認知的不協和は人の心の持つメカニズムなので、無くすことはできません。誰もが「自分らしさ」をほどほどに保ちつつ、矛盾を抱えながら生きていくことになります。なんかミスチルの歌詞っぽいです。
それではこのブログ(長文)を、ここまでわざわざ読んできた意味はなんだったんだ、ということになりますが
- 認知的不協和を自覚することで、悪化して自己欺瞞に至らないよう抑制できる(かもしれない)
- 他人の矛盾した言動に対して多少は寛容になれる
- 今晩ラーメンを食べるべきか、恋人と別れるべきか、転職すべきか、などについて以前よりも深く考えることができる
少なくとも、こういうメリットはあると思います。
ということで、今回はここまで。
中小企業診断士 過去問の解答
・設問1 イ
・設問2 ア