【職場の対立はなぜ起こる?】コンフリクトの正体と上手な対処法

コンフリクト

こんにちは、柴山です。

今回は、とある会社の出来事からスタートします。

台風でも、大雪でも、とにかく定時に出社するのが当たり前のA社。

大型台風の接近がニュースで報じられたある日、新入社員がぽつりとつぶやきました。
「どうせ明日なんて出社しても仕事にならないんだから、休みにした方がよくないですか?」

古株社員は激怒して怒鳴りました。
「社会人とはそういうもんじゃないんだ!お前はなにも分かってない!!」

社内がしんと静まり返った中で、実は多くの社員が内心では新入社員の意見にうなずいていました。

最近では、無理に出社しなくても良いという風潮が広がってきている気がします。

表面上はうまく回っているように見える会社でも、価値観の違いや立場のギャップが「静かな衝突」となって積み重なっている──そんなことはないでしょうか?

そんな中で、ちょっとした出来事や誰かの発言によって意見の相違が表面化することがあります。

今回のテーマは「コンフリクト(対立・葛藤)」です。

今回伝えたいのは対立は悪いものではなく、むしろ組織の前進に不可欠な一面もあるということです。とはいえ、放置すれば信頼関係が崩れ、職場の生産性を下げる原因にもなります。

この記事では、コンフリクトとは何か、なぜ生じるのか、そしてどう向き合えばいいのかを、心理学やマネジメントの視点から掘り下げていきます。

今回記事はこんな方におすすめ

  • 職場のチーム内がギスギスした雰囲気で、どうしたらいいか悩んでいる方
  • 上司と部下で意見のすれ違いが多く、マネジメントに頭を抱えている方
  • 部署間の対立や、部門を越えた連携の難しさに悩んでいる中間管理職の方
  • 「コンフリクトマネジメント」という言葉は聞いたことがあるが、何をすればいいのか分からない方
  • 組織の心理的安全性を高めるために、どこから手をつけるべきか迷っている経営者や人事担当の方
  • 中小企業診断士試験の勉強中でコンフリクトについて理解を深めたい ⇒過去問解説有り
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コンフリクトとは何か? ── 対立は「悪」ではない

コンフリクト(conflict)とは、立場や価値観、目標の違いによって生まれる衝突や葛藤を指します。
ビジネスシーンでは「対立」や「不一致」と訳されますが、必ずしも悪いことではありません。

むしろ、チームの中で違う意見が出るのは健全な証拠です。
問題は、それが建設的な議論に発展するのか、感情的な争いに発展するのかという点です。

■ コンフリクトの典型例

  • チーム内で意見が真っ二つに割れて、議論が平行線をたどる
  • 現場の実情を無視したトップダウンの指示に、現場が反発する
  • 若手の新しい提案が、上司やベテランに「生意気」と捉えられる
  • 同じ部門内で、仲の良い派閥と疎外されたグループができている

具体的には最初に挙げた例のように、
「悪天候や災害時の出社ルールをについて、新人が異論を唱える」
といったこともあれば、

「会社の歴史が始まって以来、誰も取ったことが無かった育休を申請する」

「冷遇されてきた部門の社員が集団退職を申し出る」

など、様々な機会にコンフリクトが表面化する可能性があります。

■ 「意見の違い」と「コンフリクト」の違い

たとえば、意見が違っても
「なるほど、そういう考えもあるね」
とお互いが受け止め合えば、問題は起きません。

ところが…
「なんでそんな考え方なんだ」
「この人とは合わない、無理かも」

と感じ始めた時、感情の摩擦を含む“コンフリクト”になります。

■ そもそも対立はなぜ起きるのか?

その背景には「利害の対立」だけでなく、

  • 経験や立場による「価値観のズレ」
  • コミュニケーション不足
  • 自分の正当性を守りたい「防衛本能」

など、人間の心理的な要素も深く関係しています。

それではコンフリクトが悪化したとき、どのような影響が職場に起こるのかを掘り下げていきましょう。

コンフリクトが職場にもたらす「見えない悪影響」

意見の対立があるのは、組織として健全なこと。
──そうは言っても、うまく扱えなかった「コンフリクト」は、職場にじわじわと悪影響を及ぼします。
しかも、それは「ケンカ」や「揉め事」として表面化するとは限りません。

ここでは、目に見えにくい形で進行するコンフリクトの影響を掘り下げてみましょう。

チームワークが壊れ、情報共有が停滞する

本音を言いにくい空気や、「言ってもどうせムダ」といった諦めが蔓延すると、コミュニケーションの質が一気に下がります。

チーム内での報告・相談・共有が滞り、業務の遅れやミスの温床になってしまいます。

エネルギーの向かう先が“外”ではなく“内”になる

本来、組織のエネルギーは「顧客への価値提供」「業績の向上」に向けられるべきですが、内部でくすぶる不満や対立があると、エネルギーが内向きに使われてしまいます。

その結果、社内政治・無意味な駆け引き・人間関係の消耗戦が発生します。

優秀な人材から順に疲弊していく

現場のモヤモヤに敏感な人、もともと責任が強い人ほど、心理的負担を感じやすいもの。

「なぜこの問題を放っておくのか?」
「誰も本気で向き合おうとしない」

と感じる中で、優秀な社員の気持ちが会社から離れていき、遂には離職に至るリスクがあります。

「納得感のない決定」が常態化する

会議では一応「意見を聞く」姿勢を見せていても、実際には忖度や暗黙のルールによって、誰も本音を言わないまま物事が決まっていく。

そんな状態では、メンバーは当事者意識を持てず、決定事項にも責任感を感じにくくなります。いわゆる「合議に見せかけた無責任」の状態です。

集団による無責任についてはこちらの記事もご覧ください。

補足:心理的安全性の低下

こうした悪影響はすべて、職場の「心理的安全性」が損なわれている状態で起きやすいとされています。

心理的安全性とは、
「自分の考えを言っても頭ごなしに否定されない」
「反対意見でも自由に発言できる」
「たとえ間違った発言をしても、人格を否定されることはない」

などのように感じられる空気のこと。

逆にこの空気がなければ、組織は徐々に沈黙と疑心暗鬼に包まれていきます。

コミュニケーションにおける心理的安全性については、こちらの記事もご覧ください。

これらはあくまで、コンフリクトが悪化、つまり悪い方向に働いた場合に起こりうることです。

一方でコンフリクトは扱い方次第では組織の刷新に役立つこともあります。「コンフリクトマネジメント」の視点について解説します。

対立はどう乗り越える?──コンフリクトマネジメントの基本

誤解が無いように断っておくと、コンフリクトマネジメントの目的は「コンフリクトを無くす」ことではありません。

価値観や考え方が異なる人たちが集まる以上、対立そのものは自然なことです。むしろ問題は、それをどのように扱うかにあります。

ここでは、コンフリクトに向き合うための基本的な視点と手法を紹介します。

1. 「対立」=「悪」ではない

日本の組織では、とかく“和”が重視され、「ぶつからないこと=良いこと」とされがちです。しかし、意見の違いを避け続けることは、思考停止と事なかれ主義を助長することにもなります。

むしろ対立は、違う視点や発想を取り込むチャンスととらえましょう。健全な衝突を経てこそ、より良い結論に至る土台が整います。

2. 感情と事実を切り分ける

コンフリクトがこじれる背景には、「感情のもつれ」が潜んでいることが多くあります。

  • なぜ自分だけ否定されたように感じたのか?
  • 相手の言い方が“強すぎる”と感じたのはなぜか?

感情の起点には、個人のスキーマ(思い込み・価値観の枠組み)があります。事実と感情を切り分けた上で、対話の場を設けることが第一歩です。

スキーマ、およびそれによって引き起こされる「ヒューリスティック」についてはこちらの記事をご覧ください。

3. 組織としての「対話の文化」を育てる

コンフリクトマネジメントは、個々の担当者の努力だけに任せるべきものではありません。むしろ、経営層や上司が意識して、組織全体に対話の文化を根づかせる必要があります。

たとえば:

  • 表面的な話し合いではなく、真摯に聞く姿勢を持つ
  • 上司の個人的考えや、「我が社では昔からこうだから」といった価値観を押しつけない
  • 会議で異論を歓迎する雰囲気をつくる

このような取り組みが、心理的安全性の土台となり、建設的な議論を可能にする職場をつくります。

4. 必要に応じて“第三者”を入れる

社員の中には議論が得意な者もいれば、自分の考えを言語化するのが苦手な者もいるでしょう。

そこで、話し合いの場が「議論が得意な者が、そうでない者を言い負かす場」にしないような工夫が必要です。当事者同士の対話では解決が難しい場合、人事や外部ファシリテーターなど中立的な立場の人間を入れるのも有効です。

介入が早ければ早いほど、関係のこじれや離職のリスクを防げます。

補足:マネージャーやリーダーの役割とは?

社内でコンフリクトが発生した時、管理職にとって重要なのは「対立があったこと」よりも「その後どう扱ったか」です。

言うまでも無く、「見なかったことにする」、「自分の感情だけで片方を責める」などは、最悪の対応です。

逆に、「両者に話を聞き、必要なら仕組みも変える」という姿勢を示せれば、信頼感は逆に高まることもあります。コンフリクトマネジメントをどう進めるかは、マネージャー、リーダーの存在感が問われる場面です。

構造を変えるためのコンフリクトマネジメント

コンフリクトは、個人の性格や相性の問題で起こると思われがちです。
しかし実際には、「そうなる仕組み」や「そうせざるを得ない環境」が、職場の中に潜んでいることが少なくありません。

つまり、対立が生まれる“構造”そのものを見直すことが、予防につながるのです。

1. 曖昧な役割・責任分担をなくす

コンフリクトの火種になりやすいのが、「誰の仕事か分からない」という状態。

  • 責任の所在が不明確なプロジェクト
  • 指揮系統が複雑で、どこに相談すべきか分からない
  • 成果物に対して「意見は出すけど、責任は取らない」文化
  • 経営者や役員が、本来の指揮系統を無視して担当者に口を出す社風

こういった曖昧さは、“責任の押しつけ合い”や“やった・やらない”の争いを生み出します。

明確な役割定義と、業務フローの可視化が必要です。

2. インセンティブ設計の見直し

部署ごとに評価基準や成果指標がバラバラだと、利害のズレが表面化しやすくなります

例えば:

  • 営業部は「売上第一」だが、製造部は「不良率削減」が優先
  • CS部は「顧客満足度重視」だが、経理部は「コスト削減」が使命

このような状況では、部門間で自然とコンフリクトが発生する構造になってしまいます。

共通のゴール(例:KPI・KGI)を設けるなど、部門間の利害調整が必要です。

3. リモートワークや多様性による「すれ違い」の防止

近年では、働き方の多様化により、

  • リモート中心で相手の状況が見えづらい
  • 年齢・国籍・価値観の異なる人との協働が増える

といった背景から、「すれ違い」がコンフリクトにつながるケースも増えています。

このような場面では、「何を・なぜ・どこまで求めているか」を明確に伝えることが重要です。

価値観が異なるメンバーと事業を進めていく上で
「言わなかったけど、そのぐらいは察して欲しかった」は、
もう通用しません。

補足:無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づく

「経理の人たちは細かすぎ」
「営業部は自分の歩合にしか興味がない」
「あの人はこういうタイプだから」
「若手は〇〇しがち」
「ベテランは△△だよね」

このような思い込みは、知らず知らずのうちに対立の前提をつくっていることがあります。

個人の資質ではなく、「その前提はどこからきたのか?」に気づく視点が、対話の質を大きく左右します。

中小企業診断士 令和3年 1次試験「企業経営理論」 第19問

コンフリクトは中小企業診断士試験の論点にもなっていますので、過去問から1つピックアップしてみました。
選択肢の文が抽象的なため、身近な具体例(勤務先の人たちなど)を思い浮かべると正解しやすいかと思います。

J.G.マーチ(J. G. March)とH.A.サイモン(H. A. Simon)は、コンフリクトを標準的意思決定メカニズムの機能不全としてとらえた。組織におけるコンフリクトに関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 意思決定に必要な情報の入手先が多様になると、組織の参加者間で認識の差異は小さくなるので、個人間コンフリクトは少なくなる。

イ 組織全体の目標の操作性が低く、曖昧さが増すと、部門目標間の差異が許容される程度が高くなるので、部門間コンフリクトは少なくなる。

ウ 組織内にスラックが多く存在すると、部門間で共同意思決定の必要性が低下するので、コンフリクトは発生しにくくなる。

エ 部門間コンフリクトが発生した場合、政治的もしくは交渉による解決策を見いだすことが、コンフリクトの原因の解消に有効である。

 の選択肢に出てくるスラック」は会社の経営資源(ヒト、モノ、カネなど)の余剰分を指します。このうち「人」の場合で考えると、悪く言えば人手が余っているということで、別の見方をすれば何かあってもヘルプ要員があてにできるということになります。

 の選択肢に出てくる「政治的」とはいわゆる社内政治のことです。これがコンフリクトの解決に役立ちそうか、考えてみてください。

正解はこの記事の最後に有ります。

まとめ──「対立がある」ことを前向きにとらえる視点

コンフリクトは、できれば避けたい出来事のように思われがちですが、実は組織の変化を促すサインでもあります。

捉え方によっては、意見のぶつかり合いは「現状に違和感がある」という声に他なりません。うまく扱えば職場をより良くする出発点になります。

そのためには担当者の責任で終わりにせず

「互いに相手を言い負かすことだけに夢中になっていないか?」

「対立の根本原因を見落としていないか?」

「組織の仕組みに歪みがないか?」


と問い直すことが、持続可能なチーム運営につながります。また、自分の思い込み(スキーマ)に気づき、相手の立場や背景を想像することは感情に振り回されない関係づくりの第一歩です。

冒頭の事例の会社でも、悪天候時のルールについてきちんと話し合うことになれば、それはBCP(=Business Continuity Plan=事業継続計画)の策定へと発展していくかもしれません。あるいは、何も見直しが行われることがなければ、災害時に深刻な被害を出してから「あの時、真剣に考えておけば…」と悔やむことになるかもしれません。

意見の相違を組織の発展につなげることができるか、それは会社の未来にとっての試金石だと言えます。

ということで、今回はここまで。

問題の解答:ウ

コンフリクト

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