こんにちは、柴山です。
唐突ですが…
一目で義理とわかるチョコ
⇒ブラックサンダー
きっと勝つと
⇒キットカット
2つとも有名なチョコレート菓子のキャッチコピーです。
同じカテゴリーの商品でも、ちょっとした言い方や意味づけによって、
- 一方は、義理チョコの「ネタ」として面白おかしく
- もう一方は、受験生に渡す「縁起物」として
大きく印象が変わり、全くの別物として記憶に残ります。
こんな感じで、人は事実そのものよりも
どんな枠組み(=フレーム)の中で受け取るか
によって印象を大きく左右される傾向があります。
この心理現象は、フレーミング効果(framing effect)と呼ばれ、マーケティングや広告、ビジネスの現場で巧みに使われています。
今回の記事では、この「フレーミング効果」が、なぜ人の判断に影響するのか、そしてそれをキャッチコピーや商品・企業の“打ち出し方”にどう活かせるのかを、身近な事例を交えながら解説してみました。
フレーミング効果:人は伝え方に左右される
フレーミング効果とは、行動経済学や認知心理学の分野で広く知られており、特に1980年代にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが提唱した「プロスペクト理論」の一部として注目されました。
典型的な例:
「成功率90%の手術」
「失敗率10%の手術」
どちらも事実としては同じですが、多くの人は「成功率90%」の方が安心できる印象を持ちます。
これは、人が「リスク」や「損失」に過敏に反応しやすいという感情ベースの判断を示しています。
なぜ人は“伝え方”に左右されるのか?
人間は、生きていく上で必要な判断の1つ1つを、じっくりと論理的に考えて行っているわけではありません。理由としては、そんなことをしていたらとても時間が足りなくなってしまうからです。
そこで、論理的に考える代わりに「わかりやすさ」や「安心感」「印象の良さ」といった感覚的な基準で、情報の重要度を決めてしまうことが多いのです。
そのため、以下のように伝え方を工夫することにより、人の行動や選択に大きな影響を与えることが可能になります。
- 残りあと3個! ⇒在庫が少ない=人気と連想させる
- 1日100円で始められる ⇒月額3,000円よりもお手軽感
- レモン10個分のビタミンC ⇒成分量をイメージしやすく
これらもすべて、フレーミング効果の応用例です。
ヒューリスティック=思考と判断の近道?
もう少し詳しく書くと、人間が時間節約の為に“ざっくりとした印象”で判断するようにできている仕組みを「ヒューリスティック(直感的な思考ルール)」といいます。
身近なヒューリスティックの例
- 料理のレシピ: 細かい分量や時間を毎回厳密に測らなくても、「だいたいこのくらい」という経験則で美味しい料理を作る
- 自動車の運転: 毎日通る道であれば、信号の色や曲がる場所をいちいち考えなくても、無意識的に運転できる
- 初めて会う人: 服装や話し方などの第一印象から、「なんとなく親しみやすそう」とか「少し警戒した方がいいかも」と感じとる
ヒューリスティックは人間が効率よく生きるための機能のようなものなので、これ自体に良い・悪いはありません。ただ、じっくり考えるべきことを「なんとなくそう思った」のように感覚的に決めてしまうと後悔することになる可能性があります。
反対に、複数の有名ブランドの中から食器洗剤を選ぶ時のように、商品同士に劇的な差が無い場合は「なんとなく」選んでも問題は無いことになります。
企業の立場で考えれば、「なんとなく」でもなんでも良いから自社製品を選んでもらいたいので、ヒューリスティックやフレーミング効果を販売戦略に活かしていこうぜ!ということなるわけです。
リフレーミングで商品の「立ち位置」を変えてみる
ただし、この記事で伝えたいのは
キャッチコピーその他、
伝え方にあの手この手を加えて
消費者を操ってやろうぜ!
ということではありません。
そうではなく、相手がどう受け取るかに配慮した伝え方の大切さです。例えば、職場での人間関係に注意を払っている方であれば、同じことを社内伝達するにも言い方が大切、ということを嫌というほど実感しているはず。
同様に、中身に自信がある商品やサービスであっても伝え方が悪ければ、その価値に気づいてもらえないこともあるので、そこには出来る限りの注意を払おう、ということです。
伝え方の中でも、枠組みを意識的に変えることで、問題や状況に対する見方を変え、新たな解決策やポジティブな感情を生み出すことをリフレーミングといいます。
冒頭に書いたブラックサンダーやキットカットについても、単にセンスのあるキャッチコピーというだけでなく、商品の立ち位置を変えてしまうようなリフレーミングの好例だと思います。
リフレーミングのポイント
- 「事実」と「認識」の分離: 商品の客観的な機能や特徴(事実)と、消費者がそれに対して抱くイメージや価値観(認識)を明確に区別する。
- 新たな視点の導入: 既存の商品カテゴリーや用途にとらわれず、全く異なる視点から商品の価値や可能性を見出す。
- ポジティブな意味合いの創出: 商品のネガティブな側面や課題と捉えられがちな点を、魅力的な価値やメリットとして再解釈する。
- 文脈の再構築: 商品が使われるシーンや、消費者のライフスタイルにおける役割を、新しい文脈で捉え直す。
- 価値観・願望への再接続: 消費者の根源的な欲求や価値観に改めて焦点を当て、商品がそれらにどのように貢献できるかを強調する。
こうして「ポイント」だけ並べても抽象的で分かりくい気もしますので、2つ例を挙げてみます。
例1:うちの近所の例「チャーハン専門店」
私が住んでいるのは愛知県一宮市ですが、市内に「チャーハン専門店」と銘打った飲食店があります。
(チャーハン専門店 金龍さん 愛知県一宮市森本3丁目17−10)
このお店のメニューを見ると、チャーハンの他にラーメン、唐揚げなどがあるので、全体としては一般的なラーメン屋さんと大きくは変わりません。
しかし、チャーハンのバリエーションを増やし、客席からもフライパンを振っている店員さんの様子が見える(聞こえる)ようにすることで、見事に「チャーハン専門店」としてラーメン屋さんと差別化しています。
おそらくラーメン屋さんを選ぶ際に、ラーメンではなくチャーハンの味を重視するような人に強烈に刺さるはずです。
私も何回か行ったことがありますし、お店の前を通りがかると駐車場は混んでいることが多いので、流行っているようです。近隣に住んでいる方は是非行ってみてください。
(なお、ボリュームがあるので糖質制限をしている方には全く向きません)
例2:「アンチエイジング」から「ウェルエイジング」 へ
従来の美容業界で用いられる、アンチエイジングという言い方には、暗黙のうちに「年を取るのは良くないことだ」というニュアンスを含んでいます。
この「加齢=悪」という枠組みから、「より良く生きるための機会=ウエルエイジング」に捉え直すのも、リフレーミングの1つです。
もう少し具体的に書くと
- 従来の価値観:若さ、外見的な美しさ。
- 新しい価値観:健康、幸福、充実感、自己成長。人生経験や知恵といった内面的な価値を重視。
こんな感じになるのではないかと思います。
まとめ:大切なのは「コピーのセンス」ではない?
こうしてみると
売れる伝え方 = かっこいいキャッチコピーを考えること
ではなくて…、
その商品やサービスを購入した消費者にどんな楽しい体験をして欲しいのか、既存の枠組みにとらわれずに考えることではないかと思います。
ですので、一番最初に
よーし、センスが光るというか、
もはやセンスしか感じられないような
そんなキャッチコピーを考えるぞ!
などのように考えてしまうのは、完全にスタートラインを間違っていると言えます。
キットカットのように、以前からあった商品に新しい意味づけを与えることができた例もあります。まずは既存の商品でなにか新しい「体験」の枠組みを作り出せないか、じっくり考えてみるのが良いのではないでしょうか?
ということで、今回はここまで。