こんにちは、柴山です。
パチンコその他のギャンブルで負けが続いた時、
「ここでやめたら、ただ損をしただけになる(だからやめられない)」
という心境に覚えがある方も多いかもしれません。
ギャンブルにおける「負けを取り返そうとする心理」。この背後には、人の“非合理な意思決定”を説明する心理学モデル──プロスペクト理論があります。
この記事では、
「勝てる見込みが低いのに、のめりこんでしまう心理」
を、プロスペクト理論の視点から読み解いていきます。
今回記事はこんな方におすすめ
- ギャンブルで大損したことがある
- FXなど投資にチャレンジしようと思っている
- 不採算事業から撤退すべきか迷っている
プロスペクト理論と損失回避バイアス:ギャンブルとの接点とは
プロスペクト理論とは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが提唱した理論で、人がどのようにリスクある選択を行うかを説明するものです。
この理論によると、人は「得をする場面」よりも「損をする場面」で感情的に強く反応します。
具体的には──
同じ金額でも、得した喜びより損した痛みの方が約2倍強く感じられる。
この心理的傾向を「損失回避バイアス」と呼びます。
ギャンブルの世界では、まさにこの損失回避が色濃く現れます。
たとえば1万円を失ったとき、私たちは「1万円をもう一度稼ぐ」だけでは納得できません。失ったものを“無かったこと”にしようとする心理が働き、それがさらなるリスクを取らせるのです。
負けを取り返す心理の落とし穴
ここで、ギャンブルにおける意思決定の典型的な例を見てみましょう。
- 1万円負けた後、「せめて半分でも取り戻そう」ともう1万円をつぎ込む。
- さらに負けが込み、「ここまできたら取り返すまで帰れない」と意地になる。
このような状況は、冷静な期待値計算(勝つ確率 × 金額)ではなく、感情にもとづいた衝動的な判断によって引き起こされています。
プロスペクト理論では、損失が大きくなると、よりリスクを好む傾向があると説明されています。つまり、負けが込んだ人ほど、さらに危険な賭けに走りやすくなるのです。
これは単なる意志の弱さではなく、全ての人の中にある心のメカニズムです。
完全に心の中から無くしてしまうことはできないとはいえ、これが暴走しないようにする対策などあるのでしょうか?
理屈を知ることは“効く”のか?対策とその限界
プロスペクト理論を知れば、ギャンブルで冷静に判断できるのか?
答えは“ノー”であり同時に”イエス”でもあります。
知識を得ても、それが感情の暴走を抑える力になるとは限りません。それでも「自分が今、損失回避バイアスに支配されている」と気づけることは大きな一歩です。
具体的な対策としては:
- 予算(損してもいい額)を事前に決める
- 一定の負け額に達したら自動で退店する仕組みを作る(アプリなど)
- 失ったお金を“授業料”と考えて感情の切り替えを試みる
などがありますが、やはり一番効果的なのは、「損を取り返すための行動」は冷静な判断ではないと自覚することです。
コンコルド効果(サンクコスト効果)との違いと応用的視点
損を取り返そうとする心理は、「コンコルド効果(サンクコスト効果)」にも似ています。サンクコストは「埋没費用」と訳され、過去に支払われた費用で、もう取り戻せないものを指します。
ギャンブルの場合では、すでに投資してしまったコスト(時間・お金・労力)を惜しんで、合理的に撤退すべき場面でもやめられない心理のことです。
- プロスペクト理論が「未来の選択」に対する心理
- コンコルド効果が「過去のコスト」に引きずられる心理
と整理するとわかりやすいでしょう。
この心理的傾向は、ギャンブルだけでなく:
- ダメだと分かっている人間関係を続けてしまう
- 不採算の事業から撤退できない
- オンラインゲームなどで延々と課金してしまう
- 「せっかく観に来たから」と、つまらない映画を最後まで見てしまう
といった日常の意思決定にも広く見られます。
サンクコストを惜しむ心理から抜け出すには、
「いったん過去のことは忘れて、現在~未来の事だけを考るとしたらどうなる?」
…のように未来志向を意識するのが1つの方法です。
とはいえ、冷静にゼロベースで考えることこそ、一番難しいのかもしれませんが。
まとめ|“取り返したい”という気持ちは破滅への第一歩かも
ギャンブルで負けたとき、
「このままじゃ終われない」
「せめて元を取りたい」
と思うのは、人として自然な感情です。
しかしその背後に、プロスペクト理論で説明される損失回避の心理的な罠があると知っておくことで、少しだけ冷静な視点を持つことができるかもしれません。
破滅への第一歩は、「取り返そう」と思った瞬間です。その時に深呼吸をして、
「今の自分、ヤバいかも?」
と問いかけてみましょう。
ということで、今回はここまで。
プロスペクト理論や損失回避バイアスの全体像は、こちらの記事もご覧ください。
ギャンブルとよく似ていますが、投資とプロスペクト理論の関係についてまとめた記事はこちら。
こちらは、特に人間関係に絞ってプロスペクト理論を解説した記事です。