こんにちは、柴山です。
新聞の社説、その他コラム記事などで、次のような論旨を読んだことのある方は多いのではないでしょうか?
筆者が外国旅行中にトラブルに遭い、親切な現地の人に助けられた。
次に同じ筆者が日本で不親切な人、マナーが悪い人に会って嫌な思いをした。
そこで、この筆者の結論、
これだから日本人はダメで
それに比べて外国は優れていて
日本経済や日本文化は…
(以下、だいたいの流れは想像がつくと思いますので省略)
こんな感じで、
- 少数の限られた例(例:たまたま会った数人)を根拠として
- より範囲の広いものごと全体(例:約1億人の日本人)に対して
○○は××だ!
けしからん!!
のように、十把一絡げ(じっぱひとからげ)的に結論を出してしまう心理的な傾向を「一般化バイアス」と呼びます。
今回は、「こういう傾向って、いわゆる”老害”の言動に近いのではないか」という仮説の元に書いてみました。
今回の記事はこんな方におすすめ
- ○○は××だ、と決めつける報道に違和感がある
- 心理学や行動経済学に関心がある
- 思い込みが激しい人、なんでも決めつけてくる人に、いつも振り回されている
- 自分が周囲から老害と思われていないか気になる
- 中小企業診断士2次試験で何度も落ちてしまい、自分の何が問題なのか分からない
なお、この記事のポイントとして、なんでもかんでも「あいつは老害だ!」のようにレッテル貼り(ラベリング)してしまうことを推奨するものではありません。(⇦ここが重要)
一般化バイアス:これだから○○は…、と決めつけてしまう心理
一般化バイアス (Generalization Bias)のおおよその定義として、少数の限られた情報に基づいて、より広範なカテゴリー全体について結論を出してしまう傾向を指します。
典型的なのは
これだから
- 日本人は…
- 今どきの若者は…
- 男は…
- 女は…
- 血液型B型の人は…
- Fラン大学卒は…
- 国産車は…
- 実家住まいの独身者は…
といった物言いであったり、「○○だから××に違いない」のように決めつける思考パターンです。
察しの言い方はお気づきと思いますが、この傾向は差別的なものの見方と非常に密接な関係があります。また、これに近い概念としては次のようなものがあります。
ステレオタイプ
特定の集団に属する人々に対して、実際には多様な人たちがいるにもかかわらず、画一的で固定的なイメージや信念を持つこと。一般化バイアスは、少ない情報を元に集団全体へのステレオタイプを押し付けてしまう要因となります。
ラベリング
ある個人や集団に対して、特定の属性や特徴を表す言葉(ラベル)を貼り付けること。いわゆる「レッテル貼り」。
一度ラベルが貼られると、その後の認識や評価がそのラベルに影響を受けやすくなり、個々の違いを無視した結論につながりやすくなります。
確証バイアス
自分の考え方に合った意見以外を受け付けなかったり、自分の考えに合うように物事を都合よく解釈したりする傾向です。
例:ストーカーの心理
相手は職場の同僚だから毎朝挨拶しているだけなのに、自分に好意を持っているに違いない、と思い込む。
なお、確証バイアスは、認知バイアスという大きなカテゴリーに含まれます。認知バイアスに興味がある方は、こちらの記事もご覧ください。

報道における一般化バイアスの悪い例
これは多分、挙げ始めたらきりが無いくらいたくさんあるのではないかと思います。ここでは実例ではなく類型として挙げるにとどめておきます。
例1
ある国籍の人物が凶悪犯罪を起こした場合、その国籍全体の人々が犯罪傾向にあるかのような印象を与える
例2
例1と同じようなことですが、犯罪を犯した人が特定のカテゴリーに属することを強調し、それが原因であるかのように説明
(例:アニメオタク、ゲームマニア、○○世代)
例3
政治的な傾向についてラベリング
(例:ネトウヨ、タカ派、極右、極左、強硬派、反日、そのほか色々)
例4
自衛隊が何かすると即、軍国化につながるという論調
(色々意見はあると思いますが、状況を無視して決めつけるのはどうかと思います)
ちなみに、一般化バイアスの傾向はSNSの投稿等にも見られますので、報道機関だけの特徴ではないことも考えておくべきです。
例1
なにかにつけて
・日本は出る杭が打たれる社会だから
・日本は同調圧力が強いから
・だから日本は終わってる
(根拠は特に無い)
例2
・○○県民の運転は荒っぽい
(ちなみに私はよくそう言われる側の愛知県民です)
・○○県民は時間にルーズ
例3
・○○は反日
・○○は反米
こういった一般化バイアスには決めつけてしまうことで深く考えなくて済むので楽、という困ったメリットがあります。
一般化バイアスのプラス面「思考のショートカット」
では一般化バイアス、イコール悪なのか、というとそうも言いきれません。たいていの場合、人間の心のメカニズムにはプラスの側面とマイナスの側面があるからです。
一般化バイアスのプラスの側面として、
迅速な判断:
将棋でいう定跡のように「こうきたら次はこう」と判断することで、毎回ゼロベースから考えるよりも素早く判断できます。これは別に手抜きというわけではなく、例えば過去に熱いものに触れて火傷した経験から「湯気が出ているものは熱い」と一般化(=決めつけ)することで、いちいち温度を確認しなくても危険を回避できます。これは、場合によっては生死にも関わる重要な機能です。
経験を生かせる:
あなたが教師だったとして、生徒1人1人に充分な時間を割けないという現実から
・こういうタイプの生徒には少しきつめの言い方をした方がいい
・こういう家庭に育った生徒は情緒に問題がある
…のように経験に基づいて直感的な判断をくだすことは、業務上役立つかもしれません。一方で、決めつけられた生徒からの反感を招く危険性もあります。
応用が効くことにつながる:
例:
フランスのレストランで食事をしたらチップが必要だった
↓
ヨーロッパであれば多分どこでもそうなんだろうと決めつけ(一般化)
↓
イギリスでレストランに行くときにもチップを用意
このように「決めつけること」が、一見それとは真逆なイメージの「応用が効くこと」につながる場合があります。
ということで、一般化バイアスによる「決めつけ」にも意外とメリットがあることが分かります。何事も程度によりけりです。
老害の誕生:一般化バイアスと成功体験
人間は年齢とともに経験が増えます。
それは良いことである反面、
この手のことなら
俺は知り尽くしているんだ!
という意識が知らず知らずのうちに芽生えてしまう可能性があります。
そうなると、
- 商品開発において最近の消費者の好みを調べもしない
- 昔は上手くいった部下の指導方法を今の若者に当てはめようとする
- パワハラ発言、会社の飲み会に強制参加させるなど、対人関係も昔のまま
といった困った傾向として現れます。かつての成功体験が「目の前の現実」を直視することを妨げてしまっているわけです。
その結果、失敗しても先ほどのストーカーの心理のように「今回はタイミングや状況が悪かっただけ」のように都合の良い解釈をしてしまい、自分の考え方を変える必要性に気づかないとすれば…
そう、立派(?)な老害の爆誕です。
「分かったつもり」にもメリットはある?
ただ、一般化バイアスにもメリットがあったように、「老害化」にも考えようによってはメリットはあります。
人は若い頃、特に社会人になりたてのころは分からないことだらけで不安がいっぱいなので、だからこそ学ぼうとします。
逆に言えば
分かったつもり
知ってるつもり
上手くいかなかったのは周囲の状況のせい
という考え方に徹すれば、不安からは解放されることになります。それはそれで自分の心を守るメカニズムなのかもしれません。
脱老害化:分かったつもりからの脱出は可能か?
普通の人であれば
いくら不安から解放されると言っても、
周りから老害と思われたくないな…
と考えるのではないでしょうか?
そこで、
- 若い人たちの意見をちゃんと聞いてみる
- 自分の「当たり前」「常識」を疑ってみる
- さらに…
…みたいなことが大切ですよ、ということを書こうかと思ったのですが、
やっぱりやめました。
おそらく自らの老害化に危機感を持っている方は、そんなこと言われなくても実施しているはずだからです。
逆に危機感がなく
俺はありのままの自分でいいんだ!
という自己肯定感100%の方には私の言葉は届かないというか、そもそもこんなブログは初めから読まないと思います。
そこで次に「分かったつもりになっている人」と、嫌でも付き合わざるを得ない人に向けて書きます。
まるで爆弾処理:「分かったつもりになっている人」への対処法
ここまで読んでくださった方は、一般化バイアスの視点から「老害化」を見てきたことになります。
ということは、この記事を読む前よりも「老害化した人」(=なんでもかんでも分かったつもりになっている人)を客観視できるはずです。
その上で対処法を考えるとすれば、
- 相手の「○○と言えば××」に対して、一定の敬意を払う
⇒相手にとって、これを否定されるということは自分のそれまでの人生経験を否定されたようなものなので、冷静な話し合いが難しくなります。 - 「○○と言えば××」に当てはまらない事例を提示できるように準備しておく
- 権威のある方の発言をちゃっかり利用する「○○先生の見解では…だそうです」
- 権限のある方の発言をちゃっかり利用する「社長が…と言ってました」
- その上で相手(たいてい上位者)の判断を委ねる姿勢を示す
⇒「これでいかがでしょうか?」
こんな感じで相手の「○○と言えば××」の思考フレームに敬意を払いつつ丁寧に破壊するという、一種の爆弾処理のような流れとなります。
これが必ず上手くいくかと言えば…、正直分かりません。というか、人間関係において必ず上手くいく方法はあるわけないというのが正直なところです。
場合によっては相手と距離を取るのが最良の選択肢ということもありますが
職場でそれができれば最初から苦労しない
ということも当然あるのが悩ましいところです。
中小企業診断士 2次試験の合格率と「老害化」の関係
この節は中小企業診断士の試験に関心が無い方は読み飛ばしてもらって結構です。
以前の記事にも書きましたが、中小企業診断士の2次試験において、40代までの受験生と50代以上の受験生では合格率に約2倍の差があります。(1次試験では合格率に目立つような差はありません)

そうなる原因として考えられるのは、
- 1日で記述式4科目をこなす2次試験は体力的にしんどい
- 年齢が上がるほど実務経験が豊富になり、解答がそちらに引っ張られてしまう
という他に、思い込みが激しく問われていることに対して素直に解答できていない、等の意見があります。
つまり、
自分は今までこうやって問題を解決してきた!(ドヤァ)
という個人の経験に基づいた解答になってしまっている分、マネジメントやマーケティングの理論に基づいた解答(=普遍性のある解答)から外れてしまっているわけです。
ここにハマってしまった人が自分でそれに気づくのは結構大変です(私の実体験より)。ですので2次試験で落ち続けている50代以上の受験生は、なるべく早めに他人の意見を聞く機会を設けることを強く(本当に)オススメします。
様々なバイアスについて知る意味とは?
改めて、心理学などで言う「バイアス」とは、思考や判断において、客観的な事実や論理から系統的に偏った傾向のことです。簡単に言えば、「ものの見方や考え方の偏り」のことです。
元来は人間が自分の心を守るために獲得した心のメカニズムなので無くすことはできません。が、そういう仕組みが人の心の中に、もちろん自分の中にもある、ということを知るだけでもだいぶ違うと思います。
たまに書店などで「心理学を学べば、他人の心を操作できる!」みたいなキャッチコピーの本を見ることがありますが、私はそんなことは思いません。
心理学を学ぶ意味と言うのはむしろ
人間の心には、これこれといった仕組みがあるので
自分の心や他人の心が思ったようにならないのは仕方ない
せめて「○○が上手くいかないのはアイツが悪い」
といった魔女狩り的な思考だけはやめとこう
…ぐらいの諦めの境地に辿り着くことではないかと思います。
あと、最初にも書きましたが、
「一般化バイアス」の特徴を当てはめて
あいつは老害だ!
のようなレッテル貼りを安易にしてしまうことはこの記事の主旨ではありません。そのようなレッテル貼りこそ一般化バイアスの悪しき事例そのものです。
ということで、今回はこれまで。