【ヒューリスティック】直感的判断の「落とし穴」と「活用法」

ヒューリスティック

こんにちは、柴山です。

初対面の人に対して、
ん…?
なんかこの人、
変かも…

みたいに感じたことはないでしょうか?

どことは具体的には言えないけど違和感がある、と思っていたら、後々その人とトラブルになった…。そういった経験がある方も多いのではないかと思います。一方で、それとは真逆に第一印象は当てにならないという経験がある方も多いはずです。

今回はこうした「なんとなく~だろう」・「なんか~ではないか」といった直感的な判断、すなわちヒューリスティックについて、その特徴や活用方法などをまとめてみました。

今回記事はこんな方におすすめ

  • 心理学や行動経済学に興味がある
  • ヒューリスティックにはどんな種類や具体例があるのか知りたい
  • ビジネスやマーケティングでの活用方法を知りたい
  • 直感に頼る判断のメリット・デメリットを知りたい
  • ヒューリスティックに関する中小企業診断士の試験問題を解けるようになりたい
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ヒューリスティックとは?:経験にもとづく思考の近道

ヒューリスティックは1970年代に心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーらによって研究が進み、行動経済学の礎となった概念です。

それによると、人間の判断は経済学などの学問で想定されるような完全に合理的プロセスではなく、ヒューリスティックという近道を使うことで意思決定のスピードを優先しているそうです。

例えば、

  • 大企業で働いてるなら、優秀な人だろう
  • いつも駐車場が混んでるから、人気の店なんだろう
  • 大企業で働いてるなら、優秀な人だろう

こういった感じで、「なんとなくそうした・そう感じた」といったことは誰にでもたくさんあるはずです。細かいこと、重要性が低いことまで、いちいち真剣に考えていたら時間がいくらあっても足りないので、ある意味で理にかなっているとも言えます。

つまり、ヒューリスティックは「速さと引き換えに正確さをあきらめる」思考のメカニズムとも言えます。

頭痛

真剣に考えていたら時間が足りない例
今日の晩御飯どうしよう、
明日まで考えるわけにはいかない…

補足:ヒューリスティックと表裏一体の「スキーマ」とは?

なお、私たちの直感的な判断の多くは、過去の経験や知識から作られるスキーマと呼ばれる思考の枠組みに基づいています。

スキーマとは、物事の捉え方や行動パターンの土台となる心のテンプレートのようなものです。たとえば「営業職は外回りが多い」「部長は決断力があるべき」といったイメージがそれにあたります。

こうしたスキーマに沿って物事をすばやく理解・判断しようとするため、ヒューリスティックが働きやすくなるのです。

便利で効率的な反面、思い込みや偏見に基づく誤判断が生まれやすいのも事実。
だからこそ、「自分の中のスキーマが何か?」を意識してみることが、より柔軟で客観的な思考への第一歩になります。

「認知バイアス」との関係:結果としての誤りと原因としての近道

ヒューリスティックとよくセットで語られるのが認知バイアス(認知的偏り)です。

ごく簡単にまとめると

  • ヒューリスティック=近道して判断する思考方法
  • バイアス=偏った判断という結果

こんな感じです。例を挙げると…

例:
最近ニュースで〇〇をよく見かけるから、きっと〇〇は頻繁に起きているに違いない
⇒実際はたまたま○○が連続して起きただけで、統計上はむしろ減っている。

この場合、
きちんと調べるでもなく、なんとなく結論を出してしまった思考方法がヒューリスティック
その結果としての、誤った判断がバイアス(利用可能性バイアス)

ということになります。

つまり、思考を端折ってしまった結果、偏った判断をしてしまう可能性が有る、という改めて考えれば割と普通の事を言ってます。

ヒューリスティックの主な種類と具体例

ヒューリスティックにはさまざまな種類がありますが、ここでは代表的なものをいくつか押さえておきます。

代表性ヒューリスティック(Representativeness Heuristic)

面接時に応募者Aさんが物静かで几帳面なタイプだと「この人は経理職に向いていそうだ」と感じ、逆にBさんが社交的でプレゼン巧みだと「営業向きだな」と即断してしまうことがあります。

こんな感じで「いかにも◯◯らしいものは◯◯だろう」と直感的に推測してしまうのが、代表性ヒューリスティックです。実際にはAさんが営業の才能を持っていたり、Bさんが実は対人ストレスを抱えやすい性格かもしれません。

代表性ヒューリスティックにより表面的な印象に引っ張られることで、冷静な思考や確率や統計にもとづく合理的な判断ができなくなる可能性があります。

利用可能性ヒューリスティック(Availability Heuristic)

利用可能性ヒューリスティックとは、頭の中で思い出しやすい情報に頼って判断してしまう思考パターンです。直近に見聞きした出来事や強く印象に残ったニュースなどがあると、それが実際以上に頻繁に起こっていると感じたり、重要視しすぎたりしてしまいます。

例えば街頭インタビューで「最近の若者のことをどう思うか?」と聞かれたとします。

今朝、たまたま電車で席を譲る学生を見たAさんは、
「最近の若者は見所がある。日本の将来が楽しみだ」と解答

今朝、たまたまニュースで若者による凶悪犯罪を知ったBさんは、
「最近の若者はダメだ…、日本はもう終わってる」と解答

こんな感じで、自分がその場ですぐ思いだせる情報(=利用可能な情報)だけで判断した結果、偏った結論となる可能性があります。

当然ながら、これでは重要な事実を見落としている可能性がありますので、意思決定時には自分がすぐに思いだせる情報だけで判断しないように注意する必要があります。

アンカリング(係留)と調整ヒューリスティック(Anchoring & Adjustment)

通常価格:〇〇〇〇円
⇒今なら30%OFFで、驚きの〇〇〇〇円

…こんな感じで表示されていると、すごくお得に見えます。ただ、そもそも通常価格:〇〇〇〇円が他店よりも高かったらどうでしょうか?

アンカリングと調整のヒューリスティックとは、最初に提示された数字や情報(アンカー:錨)を基準にしてしまい、その後の判断が引きずられる現象です。

最初に提示する情報の選び方ひとつでユーザーの判断基準を誘導できてしまう点は怖くもありますが、活用方法次第では有効な心理テクニックにもなります。

ヒューリスティックのメリット(利点)とデメリット(問題点)

ここまでを読むと
結局のところ
ヒューリスティックとかいうやつは
いいもん?
それとも、わるもん??

という疑問が生じます。

結論としてはヒューリスティックにはプラスの面とマイナスの面の両面があります。

ヒューリスティックのメリット

ヒューリスティック最大の利点は、なんといっても判断のスピードと省力化です。

限られた情報でも即座に「だいたいこんなものだろう」と結論を出せるため、日常生活やビジネスの現場で私たちは大量の小さな決断をストレスなく下せています。

また、必ずしもヒューリスティック=間違いにつながるとは限りません。最初に書いたように、初対面の人の第一印象が、後々になって正しかったことを実感している方は多いのではないでしょうか?

とは言っても、重要な場面ではきちんと情報収集してから判断するなど、慎重さが必要なのは言うまでもありません。

ヒューリスティックのデメリット

特に重要な意思決定や新規性の高い問題に対してまで「なんとなく」で済ませてしまうと、判断ミスによる大きな損失につながりかねません。

「もっと時間をかけて分析すべきだった…」と後悔する場面は、まさにヒューリスティックの落とし穴です。

またヒューリスティックによる判断は本人に自信がある場合も多く、周囲から見ると明らかに非合理でも「自分は正しいはずだ」と思い込んでしまう厄介さもあります。

即断即決型の経営者の判断は、本人もいかにも自信たっぷりで、周囲の人からも頼もしく見えるかもしれません。が、後から振り返ってみると何の根拠も無い、とんでもない間違いだったというのはあり得る話です。

「あの時、みんなで社長を止めてさえいれば…」
…とか悔やんでも後の祭り

ヒューリスティック活用術:マーケティングや意思決定に

ヒューリスティックの原理を理解すると、ビジネスでは主に二つの方向で役立てることができます。

一つは「顧客が」直感的な判断してしまうようにマーケティングで活用すること。もう一つは「自分の」または「自分が属する組織の」意思決定プロセスを改善することです。

マーケティングで「なんとなく選んでもらう」には?

消費者の購買行動においては、多くの場合深い熟慮よりも直感的な判断が行われています。

自社の製品が競合他社と比べてスペックで見劣りしていたとしても、やり方次第では直感的な判断を促すことで顧客に選んでもらえるかもしれません。

みんな使っている
「利用者数No.1」「○○万人が愛用」といった実績データを示し、多数派の安心感で判断してもらう(=多くの人に選ばれている商品はきっと良いはずだ、というヒューリスティックを促す)。

とっても希少
「期間限定〇〇」「残り在庫わずか!」など希少性を強調して急いで選択させる(=手に入れ損ねたら損だと感じ、深く考える前に行動させる。これは行動経済学で言うプロスペクト理論の損失回避の心理とも合わさっています)。

これを選べば間違いない
「当店人気No.1ランチなど、おすすめ品を明確にする(=迷わせないことで直感的に選びやすくする戦略。選択肢を整理することで、ヒューリスティックで判断してもらいやすくします)。

ただし、消費者をミスリードするような手法には注意が必要です。

商品の本質とズレたイメージを与えすぎると、購買後に「こんなはずじゃなかった」と感じさせてしまい信頼を損ねる恐れがあります。あるいは、しっかり下調べしてきた消費者に「あの店は変なものばかりすすめてくる」と、信用を堕としてしまうかもしれません。

ヒューリスティックはあくまで意思決定を後押しするものと考え、日頃の誠実な情報提供とのバランスをとることが重要です。

判断ミスを防ぐには:経営者・担当者ができること

一方、私たち自身がヒューリスティックに振り回されないようにする工夫も欠かせません。特に経営判断やプロジェクトの意思決定では、自分やチームがどんなヒューリスティックに影響されやすいか自覚しておくと良いでしょう。

根拠を確認する
直感で判断しそうになったら一呼吸おき、「それはデータや論理に裏付けされた結論か?それともなんとなくの印象か?」と問い直すクセをつける。

ファクトチェックと第三者の視点
自分の判断に自信があるときこそ別の視点から検討。部下や同僚に意見を求めたり、客観的な数値データを確認したりして、思い込みを検証する。

意思決定プロセスの標準化
組織として重要な意思決定はチェックリストや投票制など定型のプロセスを設ける。複数人の評価を集めて平均をとるといった手法で個人の直感偏重を防ぐ。

経験からくる直感を完全になくしてしまうとスピード感や創造性が損なわれてしまいます。ヒューリスティックは使い方次第だと言えますので、直感に頼る場面と論理検証する場面のメリハリをつけることがポイントです。

例えば会議終了後に
今日の会議で
根拠が曖昧なのになんとなく決めた、
あの人が言うならそうなんだろうと決めた、
とかは無かったろうか…?

などのように振り返ってみるのは有効かもしれません。

スポーツの採点では「○○の技が決まったら何点」と厳密に決めることで、採点が主観的になることを防いでいます。(それでも変な採点結果になることはありますが…)

他の心理効果・行動経済学理論とのつながり

ヒューリスティックは人間の非合理な判断パターンを理解するうえで基本となる考え方です。ここでは関連する心理効果や理論をまとめてみました。

フレーミング効果:
ヒューリスティックと同じくカーネマンらの研究で知られる現象で、伝え方(フレーム)次第で判断が変わってしまう効果です。例えば「90%の確率で成功する」と聞くのと「10%の確率で失敗する」と聞くのでは、同じ事実でも受ける印象が異なり意思決定に影響を与えます。

プロスペクト理論:
こちらも行動経済学の代表的理論で、「人は利益より損失を過大評価する」という傾向を示したものです。たとえば「1000円得する可能性」より「1000円失う可能性」のほうを強く意識して行動を選ぶ、といった人間心理をモデル化しています。

以上のように、ヒューリスティックは多くの心理効果・バイアスの土台にある考え方です。マーケティングなど、様々なことに応用できる可能性を秘めています。

中小企業診断士 1次試験 平成27年「企業経営理論」第13問

ちなみに、出題頻度は低いものの、ヒューリスティックは中小企業診断士の試験にも登場します。ここまで読んで頂いた方は、ヒューリスティックについての理解がかなり進んでいると思いますので、是非挑戦してみてください。

ちなみに「企業経営理論」の問題文および選択肢は、必要以上に抽象的で分かりづらいのが特徴です。

人間や組織は、単純化や経験則に頼って意思決定をすることが多い。こうした単純化の方法は、ヒューリスティックと呼ばれ、時には論理的な意思決定に対してバイアスをかけてしまうこともある。このようなヒューリスティックバイアスに関する記述として、最も適切なものはどれか。

ある選択肢に好意を抱いた人は、その選択肢を支持するような証拠を探し求め、データをそのように解釈する「後知恵バイアス hindsight bias」に陥りやすい。

同じ業績であっても、上司のそばに席を置いている部下の方が、遠くの席の部下よりも高く評価される傾向がある場合には、「確証バイアス confirmationias」が作用している可能性が高い。

肯定的仮説検証現象が起きると、結果が出たあとにものごとを振り返った場合、他の結果も起こりえた可能性を無視してしまう「感情ヒューリスティックaffect heuristic」に陥りやすい。

人間が意思決定する際に、「営業に適した人は社交性が必要だ」といったように、あらかじめ抱いている固定観念に合った特性を見いだそうとする「代表性ヒューリスティック representativeness heuristic」を利用する傾向がある。

人間は天気の良い日には楽観的になって、株価が上昇したりするが、このような効果は「利用可能性ヒューリスティック available heuristic」に依拠する。

ヒント:
選択肢の中にはこの記事の中には無い「○○バイアス」・「○○ヒューリスティック」もありますが、正解の選択肢はこの記事内に解説があるものです。

まとめ:直感と思考を使い分け、賢い意思決定を

ヒューリスティックは、私たち人間が日常的に用いている、思考・判断のショートカットです。

そのおかげで効率よく意思決定できる反面、場合によっては認知バイアスという形で誤った結論に導かれることもあります。ビジネスパーソンにとって重要なのは、この両刃の剣を正しく理解しコントロールすることです。

  • 日常業務では経験にもとづく勘を活かす
  • 重要場面では一歩立ち止まって論理やデータを検証する
  • マーケティングではヒューリスティックを上手に利用して顧客の心を動かす
  • 経営判断では自らのヒューリスティックに囚われすぎないようにする

そうしたバランス感覚こそが、現代のビジネスに求められるスキルと言えるでしょう。皆さんも日々の意思決定プロセスを振り返り、ヒューリスティックと上手に付き合うヒントにしてみてください。

ということで、今回はここまで。

問題の解答
正解:エ

ヒューリスティック

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