こんにちは、柴山です。
中小企業診断士 1次試験「企業経営理論」にはマネジメント論・リーダーシップ論が含まれています。
今回はそれらの論点で受験に役立つ情報を…
…と、いうよりも私の実体験を元に考えた、実務寄りの記事を書きました。
なぜ世の中には、管理職のくせにやって欲しいことを具体的に伝えられない上司が多いのか
という不条理に対する個人的な怒り(と悲しみ)が記事作成の動機になっています。
「察してほしい」上司 VS 「言わないと分からんやろ」部下
こんなことぐらい、
なんで言わなくても察してくれんのや…
あなたは部下に対して、そう思ったことはありませんか?あるいは、上司からそう言われた経験はありませんか?
ビジネスの現場でよく耳にするこの言葉、実は深刻なコミュニケーション不足のサインです。特に、プレーヤーからマネージャーになったばかりの方は、この「察してほしい」という感情に陥りやすいかもしれません。
あなたが今プレーヤーの立場であれば、自分の業務を完璧にこなすことがミッションです。しかし、ひとたびマネージャーになったのであれば、その役割は自分だけでなくチーム全体の成果を最大化すること。
そのためには、明確な指示と円滑なコミュニケーションが不可欠です。「言わなくても分かるはず」という期待は、往々にして部下の混乱を招き、チーム全体のパフォーマンスを低下させる原因となります。
この記事では「察してほしい」という考え方の弊害を解説します。
さらに曖昧な指示が引き起こす悪循環、具体的な指示の出し方、質問しやすい環境づくり、フィードバックの重要性など、マネージャーとして知っておくべきコミュニケーションの基本を、「これでもか」というくらいに網羅的にご紹介します。
この記事を読めば、あなたは「察して」一辺倒のマネジメントから脱却し、チームを成功に導く効果的なコミュニケーションスキルを身につけることができるはずです。
「察して文化」の落とし穴:なぜビジネスで通用しないのか?
日本には古くから「以心伝心」という言葉があるように、言葉にしなくても相手の気持ちを察する文化が根付いているようです。これは、長年の人間関係や共通の文化的背景を持つ人々の中では有効に機能します。
しかし、ビジネスの現場、特に多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる現代の職場では、この「察して文化」が大きな落とし穴となることが多いのではないでしょうか?
例えば、こんな場面を想像してみてください。
場面1:新商品のプレゼンテーション後
上司:「今回のプレゼン、なかなか良かったんじゃないか。」
部下:(内心:『なかなか』ってどういう意味だろう?具体的にどこが良かったんだろう?改善点はないのかな?)ありがとうございます。
この会話だけでは、上司が本当にプレゼンを評価しているのか、それとも社交辞令なのか、部下には正確に伝わりません。部下は不安を抱えたまま、次の行動に移ることになります。
また、別の場面を考えてみましょう。
場面2:プロジェクトの進捗報告
部下:「プロジェクトは順調に進んでいます。」
上司:「そうか、分かった。」
部下:(内心:本当に分かったのかな?何か質問はないのかな?進捗の具体的な内容を説明した方がいいのかな?)
場面3:会議資料の作成
上司:「来月の会議の資料、前回と同様に作ってくれ」
部下:「はい、分かりました」
部下:(内心:とはいっても前回の会議で社長から改善を求められたから、同じでいいはずないんだよな…)
この場合、上司は本当に状況を理解しているのか、単に報告を聞き流しているだけなのか、部下には判断できません。部下は「もっと詳しく報告すべきだったか?」と不安に感じたり、「報告する意味がなかった」と落胆したりするかもしれません。
これらの例で分かるように、「察して」というコミュニケーションは、送り手と受け手の間に認識のズレを生み出しやすく、誤解や不安、不信感につながる可能性があります。ビジネスにおいては、曖昧な表現や意図の伝わらないコミュニケーションは、業務の遅延、ミスの発生、モチベーションの低下など、様々な悪影響を及ぼします。
「察して文化」がビジネスで通用しない理由はいくつかあります。
◇多様な背景を持つ人々とのコミュニケーション:
現代の職場は、年齢、性別、国籍、価値観など、多様な背景を持つ人々が集まっています。共通の文化的背景や暗黙の了解が少ないため、「察して」というコミュニケーションは成立しにくいのです。
◇情報伝達の正確性の重要性:
ビジネスにおいては、正確な情報伝達が不可欠です。曖昧な表現は誤解を生み、重大なミスにつながる可能性があります。
◇スピードと効率性の重視:
ビジネスの世界では、迅速な意思決定と効率的な業務遂行が求められます。「察して」という遠回しなコミュニケーションは、時間と労力の無駄につながる可能性があります。
つまり、ビジネスにおいては、言葉で明確に伝え、意図を正確に共有することが、成功への鍵となるのです。次の章では、部下を動かす明確な指示の出し方について詳しく解説していきます。
曖昧な指示は「丸投げ」と同じ:部下を混乱させる悪循環
前章で見たように、「察して」というコミュニケーションは、ビジネスの現場で様々な問題を引き起こします。中でも、曖昧な指示は部下を混乱させ、業務の停滞やミスの原因となるだけでなく、チーム全体の士気にも悪影響を及ぼす深刻な問題です。
曖昧な指示は、部下にとって「丸投げ」とほぼ同じ状況を生み出してしまうと言っても過言ではありません。
例えば、上司から「この資料、適当にまとめておいて」という指示を受けた部下は、何をどうまとめていいのか分からず途方に暮れてしまうでしょう。「適当に」という言葉は、人によって解釈が異なり、具体的な基準が示されていないため、部下はどのようなアウトプットを期待されているのか理解できないのです。
具体的な例をいくつか見てみましょう。
例1:市場調査の指示
上司:「最近、競合の動きが気になるから、市場調査しておいて」
この指示を受けた部下は、以下のような疑問を抱くでしょう。
- どの競合を調査すればいいのか?
- どのような情報を収集すればいいのか?
- 調査期間はいつまでか?
- どのような形式で報告すればいいのか?
これらの情報が不足しているため、部下は手探りで調査を進めることになり、時間と労力を無駄にしてしまう可能性があります。
これでは最悪の場合、上司が期待していた内容とは全く異なる調査結果を提出してしまうかもしれません。
例2:顧客への提案資料作成の指示
上司:「来週の顧客への提案資料、作っておいて。」
この指示も非常に曖昧です。部下は以下のようなことを考えるでしょう。
- どのような提案をするのか?
- 資料のターゲットは誰か?
- 資料の構成やデザインはどうすればいいのか?
- 過去の資料を参考にすればいいのか?
このように情報が不足しているため、部下は資料作成に不安を感じ、なかなか作業に取り掛かれないかもしれません。また、上司に何度も質問しなければならなくなり、コミュニケーションコストも増大します。
曖昧な指示は、部下にとって以下のような悪影響を及ぼします。
- 混乱と不安: 何をすべきか分からず、業務に集中できない。
- モチベーションの低下: 努力しても評価されないのではないかという不安を感じ、仕事への意欲を失う。
- 時間の浪費: 手探りで作業を進めるため、無駄な時間と労力が発生する。
- ミスの増加: 指示の意図を正しく理解できないため、ミスが発生しやすくなる。
- 上司への不信感: 上司の指示能力に疑問を持ち、信頼関係が損なわれる。
一方で、上司も部下から質問があるたびに自分の業務を中断しなければなりません。また上司不在で確認がとれない際は、その案件が停滞してしまうことになります。
これらの悪影響は、個々の部下だけでなく、チーム全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。曖昧な指示は、まさに「丸投げ」と同じであり、部下を混乱させ、チーム全体の足を引っ張る要因となるのです。
次の章では、これらの問題を解決するために、部下を動かす明確な指示の出し方について詳しく解説していきます。
「言わなくても分かるはず」は幻想:期待と現実のギャップ
長年一緒に仕事をしているのだから、言わなくても分かるはず
これくらいのことは、自分で考えて動いてほしい
マネージャーの中には、部下に対してこのような期待を抱いている人がいるかもしれません。しかし、この「言わなくても分かるはず」という考え方は、多くの場合、単なる幻想に過ぎません。なぜなら、上司と部下の間には、経験、知識、価値観、そして情報の非対称性など、様々なギャップが存在するからです。
例えば、上司が過去の経験から「当然こうするだろう」と考えていても、経験の浅い部下は同じように考えるとは限りません。また、上司が知っている情報を部下が知らない場合、上司の意図を正確に理解することは困難です。
具体的な例を挙げてみましょう。
例1:業務改善の提案
上司:「今の業務、もっと効率化できる余地があると思うんだよね。」
部下:(内心:効率化…具体的に何をどうすればいいんだろう?そもそも、上司は現状の業務のどこに課題を感じているんだろう?)
上司は漠然と「効率化」を期待していますが、具体的な方法や目標は示していません。部下は上司の意図を汲み取ろうと試みますが、情報が不足しているため、的外れな提案をしてしまう可能性があります。
例2:顧客対応の改善
上司:「最近、顧客からのクレームが多いから、対応を改善してほしい。」
部下:(内心:クレームが多いのは知っているけど、具体的にどのようなクレームが多いんだろう?どのように対応すればいいんだろう?過去の事例を参考にしてもいいのかな?)
上司は「対応の改善」を求めていますが、具体的な改善策や目標は示していません。部下は過去の事例を参考にしようとしますが、上司が想定している改善策と一致するとは限りません。
これらの例から分かるように、上司の期待と部下の認識の間には、しばしば大きなギャップが存在します。このギャップは、以下のような要因によって生じます。
- 経験の差: 上司は長年の経験から業務の全体像や背景を理解していますが、経験の浅い部下はそうではありません。
- 知識の差: 上司は特定の分野に深い知識を持っているかもしれませんが、部下はそうではないかもしれません。
- 価値観の差: 上司と部下では、仕事に対する価値観や優先順位が異なる場合があります。
- 情報の非対称性: 上司は知っている情報を部下が知らない、あるいはその逆の場合があります。
「言わなくても分かるはず」という期待は、これらのギャップを無視した、一方的な思い込みに過ぎません。この幻想を抱き続ける限り、上司と部下の間には誤解や不満が生まれ続け、良好なコミュニケーションを築くことはできません。
次の章では、このようなギャップを解消し、部下を効果的に動かすための、具体的な指示の出し方について解説していきます。
指示は「具体的」が基本:部下を動かす明確な伝え方
これまでの章で見てきたように、「察して」という曖昧なコミュニケーションや「言わなくても分かるはず」という期待は、部下の混乱やモチベーション低下、そしてチーム全体のパフォーマンス低下を招きます。これらの問題を解決するためには、指示を「具体的」に伝えることが何よりも重要です。
では、「具体的な指示」とは一体どのようなものでしょうか?それは、部下が何を、いつまでに、どのように行うべきかを明確に理解できる指示です。具体的には、以下の5つの要素を含んでいることが望ましいと言えます。
- 何を (What): 業務内容を明確に伝える。
- なぜ (Why): 業務の目的や背景を伝える。
- いつまでに (When): 納期や期限を明確に伝える。
- どのように (How): 業務の進め方や方法を伝える。
- どこまで (Where): 業務の範囲や目標水準を伝える。
これらの要素を意識することで、部下は迷うことなく業務に取り組み、期待された成果を出すことができるようになります。
具体的な例を挙げて、具体的な指示と曖昧な指示の違いを見てみましょう。
例1:資料作成の指示
曖昧な指示: 「来週の会議で使う資料、作っておいて。」
具体的な指示: 「来週の月曜日に行われる役員会議で使用する、上半期の業績報告資料を作成してください。この資料は、役員に上半期の業績概要と今後の見通しを伝えることを目的としています。資料には、売上高、利益、主要KPIの推移、および今後の市場動向予測をグラフと表を用いて分かりやすくまとめてください。過去の資料は共有フォルダの「2023年度資料」フォルダにありますので、参考にしてください。締め切りは今週の金曜日です。」
例2:顧客への連絡指示
曖昧な指示: 「あの件、顧客に連絡しておいて。」
具体的な指示: 「〇〇社の△△様宛に、先日の契約内容変更の件でご連絡ください。今回の変更点は、納期が1週間延期になったことと、追加費用が発生することです。電話でご連絡し、変更内容を口頭で説明した後、変更合意書をメールで送付してください。先方からの質問があれば、私に確認を取ってください。明日中に連絡を完了させてください。
これでもか、というくらい曖昧な指示と、対照的に具体定期な指示を並べてみました。これらの例から分かるように、具体的な指示は、部下にとって以下のようなメリットをもたらします。
- 明確な目標設定: 何をすべきかが明確になるため、迷うことなく業務に取り組める。
- モチベーションの向上: 目的や背景が理解できるため、仕事への意欲が高まる。
- 効率的な業務遂行: 手探りで作業を進める必要がなくなり、時間と労力を節約できる。
- ミスの削減: 指示の意図を正しく理解できるため、ミスを減らすことができる。
- 上司との信頼関係構築: 明確な指示は、上司のリーダーシップへの信頼を高める。
また、具体的な指示を出すことは、上司にとってもメリットがあります。
- 部下からの質問が減り、自身の業務に集中できる。
- 部下の成果物の質が向上し、手戻りが減る。
- チーム全体のパフォーマンスが向上する。
「何を、なぜ、いつまでに、どのように、どこまで」を意識した具体的な指示は、部下を動かし、チームを成功に導くための基本です。
次に、部下が質問しやすい環境づくりについて解説していきます。
「なぜ?」を伝える重要性:目的意識が部下のモチベーションを高める
前章では、具体的な指示を出すことの重要性について解説しました。しかし、指示を具体的に伝えるだけでなく、その「なぜ?」、つまり業務の目的や背景を伝えることは、部下のモチベーションを大きく高める上で非常に重要です。
人間は、自分が何のために仕事をしているのか、その仕事がどのような意味を持つのかを理解することで、より高いモチベーションを持って業務に取り組むことができます。逆に、目的や背景が分からないまま作業だけをこなしていると、仕事に対する意欲が低下し、パフォーマンスも低下してしまう可能性があります。
例えば、同じ資料作成の仕事でも、「ただ言われたから作る」のと、「この資料が役員会議で重要な意思決定の材料となり、会社の将来を左右するかもしれない」という認識を持って作るのとでは、仕事への取り組み方や完成度に大きな差が生まれることは想像に難くないでしょう。
具体的な例を見てみましょう。
例1:データ入力の依頼
目的を伝えない指示: 「このデータをシステムに入力しておいて。」
目的を伝える指示: 「このデータをシステムに入力しておいて。これは、来月実施するキャンペーンの効果測定に必要なデータで、正確な数値を把握することで、今後のマーケティング戦略を立てる上で非常に重要な情報となります。」
例2:顧客アンケートの実施依頼
目的を伝えない指示: 「顧客にアンケートを送っておいて。」
目的を伝える指示: 「顧客にアンケートを送っておいて。このアンケートは、顧客満足度を向上させるための施策を検討するために実施するもので、顧客の貴重な意見を直接聞くことができる重要な機会です。回答結果は、今後のサービス改善に役立てられます。」
このように、業務の目的や背景を伝えることで、部下は以下のようなことを理解できます。
- 仕事の意義: 自分が担当している業務が、チームや組織全体の目標達成にどのように貢献しているのかを理解できる。
- 仕事の重要性: 自分の仕事がどれほど重要なのかを認識し、責任感を持って業務に取り組むことができる。
- 仕事へのモチベーション: 仕事に対する意欲ややりがいを感じ、積極的に業務に取り組むことができる。
また、「なぜ?」を伝えることは、部下の主体性を育むことにもつながります。目的を理解することで、部下は自ら考え、工夫しながら業務を進めることができるようになります。上司からの指示待ち人間になるのではなく、自律的に行動する人材を育成することができるのです。
例えば、部下が資料の作成目的を理解していることによって「役員に見せるのが目的であれば、ここをこうした方が良いかもしれない」など、部下からの提案が期待できるかもしれません。
「なぜ?」を伝えることは、一見すると手間がかかるように思えるかもしれません。しかし、長期的に見れば、部下のモチベーションを高め、生産性を向上させ、チーム全体のパフォーマンスを最大化するための、非常に重要な投資と言えます。
次に部下が質問しやすい環境づくりについて解説していきます。
質問しやすい環境づくり:部下の「分からない」を解消する
これまでの章で、具体的な指示の出し方や目的を伝えることの重要性について解説してきました。しかし、どんなに丁寧に指示を出しても、部下は業務を進める中で疑問や不明点が生じる可能性があります。そのような時に、部下が気軽に質問できる環境を作っておくことは、業務の円滑な進行と部下の成長にとって非常に重要です。
質問しやすい環境がない場合、部下は
「こんなことを聞いたら怒られるかもしれない」
「無能だと思われるかもしれない」
といった不安から、質問をためらってしまうことがあります。その結果、問題を抱えたまま作業を進め、ミスにつながったり、業務が停滞したりする可能性があります。
では、具体的にどのような環境を作れば、部下が質問しやすくなるのでしょうか?以下にいくつかのポイントを紹介します。
◇「いつでも質問していい」というメッセージを明確に伝える:
日常のコミュニケーションの中で、「分からないことがあれば遠慮なく聞いてね」「些細なことでも構わないから、疑問に思ったらすぐに聞いてほしい」といったメッセージを伝えることで、部下は安心して質問できるようになります。
◇質問を歓迎する姿勢を示す:
部下から質問を受けた際には、嫌な顔をしたり、面倒くさそうに対応したりするのではなく、真摯に耳を傾け、丁寧に答えるように心がけましょう。「いい質問だね」「よく聞いてくれた」など、ポジティブなフィードバックを与えることも効果的です。
◇質問しやすい雰囲気を作る:
普段から部下と積極的にコミュニケーションを取り、良好な関係を築いておくことが大切です。雑談などを通して、リラックスした雰囲気を作ることで、部下は質問しやすくなります。
◇質問する時間を設ける:
定期的なミーティングなどで、部下が質問する時間を設けることも有効です。事前に質問事項を準備するように促すことで、より建設的な議論につながります。
◇質問しやすいツールや仕組みを導入する:
チャットツールや社内FAQサイトなどを活用することで、部下は気軽に質問したり、過去の質問履歴を参考にしたりすることができます。
◇「分からないこと」を共有する文化を作り:
上司自身も「分からないこと」を部下に尋ねたり、相談したりすることで、「分からないことは恥ずかしいことではない」というメッセージを伝えることができます。
例えば、以下のような対応を心がけると良いでしょう。
部下:「この資料のこの部分の意味がよく分からないのですが…」
上司:「ああ、そこね。これはね…(丁寧に説明)。他に分からないところはある?」
部下:「ありがとうございます!おかげでよく分かりました。」
このように、質問に対して肯定的に対応することで、部下は安心して質問できるようになります。
質問しやすい環境を作ることは、単に業務がスムーズに進むだけでなく、部下の成長を促進する効果もあります。質問を通して、部下は知識やスキルを向上させ、問題解決能力を高めることができます。
繰り返しになりますが、重要なのは「いつでも質問していい」ということを言葉で伝えるだけでなく、表情や身振りなど非言語コミュニケーションにおいても伝えることです。言葉と態度が一致していなければ、部下は安心して上司とコミュニケーションを取ることができません。
次に適切なフィードバックの与え方について解説します。
フィードバックは成長の鍵:一方通行の指示はNG
これまでの章では、明確な指示の出し方、目的を伝えることの重要性、質問しやすい環境づくりについて解説してきました。これらに加えて、部下の成長を促進するために欠かせないのが、適切なフィードバックです。
フィードバックとは、部下の行動や成果に対して、上司が客観的な評価や改善点などを伝えることです。単に結果だけを評価するのではなく、プロセスや努力も評価することで、部下のモチベーションを高め、成長を促す効果があります。
フィードバックが不足している場合、部下は自分の仕事がどのように評価されているのか分からず、不安を感じたり、成長の機会を逃したりする可能性があります。また、一方通行の指示だけで終わらせてしまうと、部下は上司の意図を十分に理解できないまま業務を進めることになり、期待された成果を出すことが難しくなります。
効果的なフィードバックを行うためには、以下の点を意識することが重要です。
◇具体的な事実に基づいて伝える:
曖昧な表現ではなく、具体的な行動や成果に基づいてフィードバックを行うことで、部下は自分の強みや改善点を明確に理解できます。
◇タイミングを逃さない:
業務の直後や、定期的な面談などで、できるだけ早いタイミングでフィードバックを行うことで、部下は改善に取り組みやすくなります。
◇ポジティブな面と改善点をバランス良く伝える:
良い点だけでなく、改善点も伝えることで、部下の成長を促すことができます。ただし、改善点ばかりを指摘すると、部下のモチベーションを下げてしまう可能性があるため、バランスが重要です。
◇一方通行にならないようにする:
上司からの一方的な評価だけでなく、部下の意見や考えも聞くことで、双方向のコミュニケーションを行うことが大切です。
◇建設的な言葉で伝える:
感情的な言葉や人格否定につながるような言葉は避け、建設的な言葉で伝えることで、部下はフィードバックを素直に受け入れることができます。
今後の行動につながるように伝える: フィードバックは、単に過去を振り返るだけでなく、今後の行動につながるように伝えることが重要です。具体的な改善策や目標設定などを一緒に考えることで、部下の成長を効果的にサポートできます。
例えば、以下のようなフィードバックが良い例と言えるでしょう。
「今回のプレゼンテーション、資料の構成が分かりやすくて良かったよ。特に、グラフを使った説明は、聴衆の理解を深めるのに役立っていたね。ただ、時間配分が少し気になったので、次回はもう少し時間を意識して話してみると、さらに良くなると思うよ。」
「先日の顧客対応、迅速な対応で顧客からの信頼を得られていたね。ただ、状況説明が少し不足していた部分があったので、次回はより丁寧に説明するように心がけてみると、さらに顧客満足度を高めることができると思うよ。」
このように、具体的な事実に基づいて、ポジティブな面と改善点をバランス良く伝え、今後の行動につながるように伝えることで、部下はフィードバックを成長の糧とすることができます。
フィードバックは、部下を成長させるだけでなく、上司と部下の信頼関係を深める効果もあります。定期的なフィードバックを通して、部下とのコミュニケーションを密にし、より強固なチームを作り上げていきましょう。
「察して」はパワハラにもつながる?:認識のズレがもたらす問題
これまでの章で、「察して文化」がビジネスにおけるコミュニケーションの障害となることを様々な角度から見てきました。しかし、「察して」というコミュニケーションは、単なる誤解や業務の停滞だけでなく、場合によってはパワハラにつながる深刻な問題を引き起こす可能性があります。
「察して」というコミュニケーションは、送り手と受け手の間に認識のズレを生み出しやすく、このズレが積み重なることで、以下のような状況が生じる可能性があります。
◇意図の誤解:
上司が「察してほしい」と思って曖昧な表現を使った場合、部下は上司の意図を正しく理解できないことがあります。この誤解が、部下にとって不当な要求やプレッシャーと感じられる場合があります。
◇過度な忖度:
部下が上司の意図を過剰に忖度しようとするあまり、本来する必要のない業務まで引き受けてしまったり、自分の意見を言えなくなったりする場合があります。このような状況が続くと、部下は精神的に疲弊し、心身の健康を害する可能性があります。
◇責任の所在の曖昧化:
指示が曖昧なため、業務の責任の所在が不明確になることがあります。ミスが発生した場合、誰が責任を負うのかが曖昧になり、部下が不当に責任を追及される可能性があります。
◇不信感の増大:
「察して」というコミュニケーションが繰り返されることで、上司と部下の間に不信感が生まれ、良好なコミュニケーションを築くことが困難になります。
これらの状況は、厚生労働省によるパワハラの定義「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」に該当する可能性があります。
具体的な例を見てみましょう。
上司が部下に対して「忙しそうだな」とだけ言い、具体的な指示を出さない場合、部下は「残業してでも仕事を終わらせろ」というメッセージだと受け取ってしまう可能性があります。これは、上司の意図とは異なる解釈であり、部下にとっては過度なプレッシャーとなります。
上司が部下に対して「君なら分かるだろう」とだけ言い、業務内容の説明を省略した場合、部下は「期待に応えなければならない」というプレッシャーを感じ、無理をして業務に取り組んでしまう可能性があります。
これらの例から分かるように、「察して」というコミュニケーションは、上司の意図とは関係なく、部下にとって精神的な苦痛を与える可能性があります。特に、上下関係が明確な職場においては、部下は上司の意図を過剰に忖度し、無理をしてしまう傾向があります。
「察して」というコミュニケーションは、パワハラを意図していなくても、結果的にパワハラにつながる可能性があることを、上司は十分に認識する必要があります。
明確な指示を出すこと、目的や背景を伝えること、質問しやすい環境を作ること、適切なフィードバックを行うことなど、これまでの章で解説してきた内容を実践することで、「察して」というコミュニケーションに頼らない、健全な職場環境を構築することが重要です。
コミュニケーション能力はマネジメントの基本
これまでの章を通して、「察して」という曖昧なコミュニケーションがもたらす様々な問題点を見てきました。これらの問題を根本的に解決し、チームを活性化するためには、マネジメント層の意識改革が不可欠です。コミュニケーション能力は、マネジメントの基本であり、チームを成功に導くための重要な要素です。
マネジメント層が意識すべきことは、以下のとおりです。
◇「言わなくても分かるはず」という幻想を捨てる:
上司と部下の間には、経験、知識、価値観、情報などのギャップが存在することを認識し、「言わなくても分かるはず」という考え方を改める必要があります。
◇明確な指示を出すことの重要性を認識する:
部下が何を、いつまでに、どのように行うべきかを明確に理解できる指示を出すことで、業務の効率と質を高めることができます。
◇目的や背景を伝えることの重要性を認識する:
業務の目的や背景を伝えることで、部下のモチベーションと主体性を高めることができます。
◇質問しやすい環境づくりを意識する:
部下が気軽に質問できる環境を作ることで、疑問や不明点を早期に解消し、ミスや業務の停滞を防ぐことができます。
◇適切なフィードバックを行うことの重要性を認識する:
部下の成長を促すために、具体的な事実に基づいた、建設的なフィードバックを定期的に行うことが重要です。
◇「察して」がパワハラにつながる可能性を認識する:
曖昧なコミュニケーションが、部下にとって精神的な苦痛を与える可能性があることを理解し、明確なコミュニケーションを心がける必要があります。
これらの意識改革は、単に上司個人の問題ではなく、組織全体で取り組むべき課題です。組織全体でコミュニケーションの重要性を認識し、研修などを通してマネジメント層のコミュニケーション能力向上を支援することで、より効果的な改革を進めることができます。
マネジメント層の意識が変われば、以下のような効果が期待できます。
- 業務効率の向上: 明確な指示と目的の共有により、無駄な作業や手戻りが減り、業務効率が向上します。
- 部下のモチベーション向上: 仕事の意義や重要性を理解し、質問しやすい環境で働くことで、部下のモチベーションが高まります。
- チームワークの向上: 円滑なコミュニケーションを通して、チームメンバー間の信頼関係が深まり、より強固なチームワークが構築されます。
- ミスの削減: 指示の意図を正しく理解し、疑問点を早期に解消することで、ミスを減らすことができます。
- パワハラの防止: 「察して」という曖昧なコミュニケーションに頼らないことで、パワハラのリスクを低減することができます。
コミュニケーション能力は、マネジメントの基本であり、チームを活性化し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための重要な鍵となります。
マネジメント層の意識改革を通して、より健全で生産性の高い職場環境を実現しましょう。
「察して」に頼らないリーダーシップで最大の成果を
今回の記事では、「察して」という曖昧なコミュニケーションがビジネスにもたらす様々な問題点と、それを解消するための具体的な方法について解説してきました。最後に、これまでの内容をまとめ、「察して」に頼らない組織文化を構築することで、いかに成果を最大化できるのかを改めて強調したいと思います。
「察して」というコミュニケーションは、一見すると効率的に見えるかもしれませんが、実際には誤解や不信感、業務の停滞、そして最悪の場合パワハラといった深刻な問題を引き起こす可能性があります。これらの問題を根本的に解決し、組織全体のパフォーマンスを向上させるためには、「察して」に頼らない、明確なコミュニケーションを基本とする組織文化を構築することが不可欠です。
脱!「察して文化」のためにやるべきこと
◇明確な指示の徹底:
「何を、なぜ、いつまでに、どのように、どこまで」を意識した、具体的で分かりやすい指示を出すことを徹底します。
◇目的と背景の共有:
業務の目的や背景を伝えることで、部下のモチベーションと主体性を高めます。
◇質問しやすい環境の整備:
部下が気軽に質問できる環境を作ることで、疑問や不明点を早期に解消し、ミスや業務の停滞を防ぎます。
◇適切なフィードバックの実施:
具体的な事実に基づいた、建設的なフィードバックを定期的に行うことで、部下の成長を促します。
◇コミュニケーション研修の実施:
マネジメント層だけでなく、全社員を対象としたコミュニケーション研修を実施することで、組織全体のコミュニケーション能力向上を図ります。
◇「察して」文化の弊害の周知:
「察して」というコミュニケーションがもたらす問題点を周知することで、組織全体で意識改革を促します。
「察して文化」卒業、その先にあるもの
現実はなかなか理想通りいかないかもしれませんが、
コミュニケーション改善 ⇒ 組織活性化
その先には様々な可能性が待っているはずです。
◇生産性の向上:
明確なコミュニケーションにより、無駄な作業や手戻りが減り、生産性が向上します。
◇従業員エンゲージメントの向上:
仕事の意義や重要性を理解し、質問しやすい環境で働くことで、従業員のモチベーションとエンゲージメントが高まります。
◇イノベーションの促進:
活発なコミュニケーションを通して、新しいアイデアや意見が生まれやすくなり、イノベーションが促進されます。
◇リスクマネジメントの強化:
誤解や情報伝達のミスが減ることで、リスクを低減することができます。
◇良好な職場環境の構築:
相互理解と信頼に基づいたコミュニケーションを通して、良好な職場環境が構築されます。
真の「察して文化」撲滅の鍵は早期リーダー教育か?
今回は「察して文化」および「察して上司」の弊害について、とことん書いてみました。
一方で、現役の「察して上司」の方がこの記事を読んだからといって今日から考え方を改めるかといえば、現実的には難しいと思っています。
おそらく本当の意味で「察して文化」を撲滅するための鍵は、役職につく前からの若手に対する意識づけではないでしょうか?何故なら40代以上で考え方が固まってしまった、または固まりつつある人に「察して」はやめろ!と言っても心理的な抵抗が予想されるからです。
そんなわけで組織文化の刷新は簡単ではないものの、「察して」に頼らない明確なコミュニケーションを基本とする文化が生まれれば、それは企業にとってかけがえのない財産になるはずです。
ということで、今回はここまで。