こんんちは、柴山です。
小さい子供が、好きな子や親など関心を引きたい相手にイタズラをして困らせることがあります。
おもちゃを投げたり大声を出すなど、相手に「かまってほしい」という本人も無自覚な感情がそういった行動の引き金になっています。
実は、こういった無自覚な感情によって引き起こされる行動は子供に限ったことではありません。
大人でも
- いつも余計な一言で他人を怒らせて、その度に後悔
- 部下の相談に乗っていたつもりが、いつの間にか自慢話をしている
…といったことは、どこにでもありがちな話です。
一方、自分の感情を一歩引いた視点で見ることに長けた人もおり、そういった能力はビジネスや人間関係でも重要視されるようになってきています。
ということで、今回は自分を俯瞰する力とも言うべき「メタ認知」についてです。
メタ認知とは?──「気づいている自分」に気づく力
メタ認知(Metacognition)とは心理学用語で、「自分が今、どう考え、どう感じ、どう行動しているか」に気づく力のことです。「メタ」
たとえば――
- 集中力が落ちてきた時に、「そろそろ休憩が必要だな」と気づける
- 相手の一言にムッとしたとき、「なぜ感情的になってしまったのだろう?」と内省できる
- 他人のアイデアにダメ出ししたくなったとき、「いやいや、ブレストで否定は厳禁だから」と自制できる
このような、「一歩引いて自分を見ている自分」のような存在が、私たちの中にはいるのです。
メタ認知の学術的な背景
この概念は1970年代にアメリカの発達心理学者ジョン・H・フラベルによって提唱されました。
彼は、認知活動(考えること)をさらに一段高い視点から見つめる力として、
- 「モニタリング(観察)」
- 「コントロール(修正)」
この2つの機能に注目しました。
たとえば
今は感情的になっているから…
と、自分自身を客観視する力
だから、話し合いはまた今度にしよう
と、自制する力、
この両方がメタ認知能力です。
文学に登場する、メタ認知的なテーマ
夏目漱石の『こころ』は教科書で読んだ方も多いはずです。
作中で「先生」と呼ばれる登場人物は、利己心により自分を見失っていました。その結果、友人の「K」を出し抜こうとして取り返しのつかない選択をしてしまいます。
物語の出来事とはいえ、「先生」が自分の感情を俯瞰できていれば、また違う結末になっていたはずです。
メタ認知が欠けているときに起きる現象──職場と日常のリアルな例
「そんなつもりじゃなかったのに」
「なんであんな言い方をしてしまったんだろう」──
誰しも一度は、そんな“行動と思いのズレ”を経験したことがあると思います。
これは、「今、自分はどんな状態か?」に気づけなかったときに起こる典型的な現象です。
メタ認知がうまく働かないと、以下のような問題が現れます。
■ビジネスにおける例
相手に合わせた伝え方ができず、マニュアル通りの対応になる
相手の理解度や状況を察することができず、決まった通りに話してしまう。
「それ、ちゃんとマニュアルに書いてありますから」では、納得は得られません。
→ 自分の「正しさ」を主張することに頭の中がいっぱいで、相手の反応に気づけない
会議でのネガティブ発言が、無自覚にチームの空気を悪くする
「どうせまたダメになるでしょ」
「前回もうまくいかなかったし」
会議の流れや相手の気持ちを無視した発言は、他の人のモチベーションを削いでしまいます。
→ 自分の言葉が周囲にどう影響するか、イメージできていない
イライラの原因に気づかず、無関係な人に八つ当たりしてしまう
たとえば、別件のストレスを引きずったまま、報告してきた部下に強く当たってしまう──
「感情を分離できていない」状態が招く典型的なパターンです。
→ メタ認知が働いていれば、「今、自分は疲れているから、少し時間をおこう」と気づけたはず
チームの成果が出ないとき、他責の思考をしてしまう
「最近の若い奴は…」
「営業が悪いんだよ」
自分のマネジメントに問題があるかも?という視点が抜け落ちると、責任はいつも「外」にあるように思えてしまう──
→ 問題の本質に気づけず、改善のヒントも見逃す
部下や後輩の成長を素直に喜べない
成果を出した人、何かの目標に向けて頑張っている人に対して、無意識のうちに脅威を感じて冷たくあしらってしまう──
→相手のモチベーションを下げ、結果として心が離れて行ってしまう
■ プライベートにおける例
依存・共依存関係に気づけない
「私はこの人がいないとダメ」
──実は「ひとりになる不安」や「自分を認めてほしい気持ち」が原因である場合も。
→ 自分の“満たされなさ”を自覚できず、相手に執着してしまう
DVやモラハラの加害者・被害者ともに、感情の正体に無自覚
加害者:「怒らせる方が悪い」
被害者:「私が我慢すれば丸く収まる」
→ どちらも、自分の「怒りの根っこ」や「過度な自己否定」に気づいていない
“かまってちゃん”になる人は、自分の「寂しさ」や「不安」に気づいていない
疲れたアピール、病気アピール、構ってくれないと怒る──
それらはすべて「気づかれたい」という感情表現ですが、本人がその欲求に自覚的でないと対人関係はねじれていきます。
■これらに共通しているのは・・・
「なぜ自分がそう感じ、そう動いたのか」を無自覚なまま、言動に出てしまうこと。
メタ認知が欠けている状態とは、
「自分の内側が見えていないまま、外の世界とぶつかっている」
ようなものです。
この章で紹介したようなトラブルは、必ずしも悪意が原因ではありません。
ポイントは「自分で気づいていない」ということ。
だからこそ、気づく力=メタ認知力を育てていくことが、問題を根から改善するカギとなります。
メタ認知を高める実践法──すぐに始められる4つのトレーニング
「メタ認知」と聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。
でも実は、ちょっとした習慣や工夫を積み重ねるだけで、誰でも鍛えることができます。
ここでは、心理学的にも有効とされる4つの実践法をご紹介します。
日常生活の中でできるトレーニングで、自分の観察者を育ててみましょう。
① マインドフルネス瞑想──「今、自分はどう感じているか」に集中する
マインドフルネスとは、目の前の感覚や感情に気づくことに意識を集中する技術です。何かを判断したり分析したりする必要はありません。
ただ、呼吸に意識を向けたり、心の中に浮かんできた感情を「怒ってるな」「不安だな」とラベルを貼るだけ。
1日10分でも習慣にすれば効果はあるとされています。
「自分が何を感じているか」
を知ることが、メタ認知の第一歩です。
② ジャーナリング・モーニングページ──頭の中を「見える化」する
自分の思考や感情をノートに書き出すことで、思考のクセや感情の偏りに気づくことができます。
ジャーナリング:その日にあったこと、感じたことを自由に書く
モーニングページ:朝起きてすぐ、思考を3ページ分ひたすら書き出す
書いた内容に正解も評価も必要ありません。
「頭の中で渦巻いていたことが、文字にしてみると大したことではなかった」
なんてこともよくあります。
書き出すことで自分の中の声と向き合えるようになります。
③ AIを使った壁打ち──「自分の思考」を言葉にして整理する
「誰かに話すほどではないけれど、頭の中がモヤモヤする」──
そんなときに便利なのが、AIとの対話を使った“壁打ちトークです。
ChatGPTなどの対話型AIに、自分の悩みや考えていることを入力してみてください。
すると、AIが質問を返してきたり、あなたの気持ちを整理してくれるきっかけを与えてくれます。
たとえば:
- 「なぜその選択に迷っているのか?」
- 「そのとき、自分はどんな気持ちだった?」
- 「他にどんな見方ができると思う?」
AIは生身の人間と違い、上から目線で説教してきたり、頭ごなしに否定したりはしないので、精神的なダメージを心配する必要もありません。
自分の思考を言語化して入力するだけでも、かなりのメタ認知トレーニングになります。
AIを上手に活用するためのヒント
AIとの対話をより効果的にするには、最初に「どういうリアクションを期待しているか」を伝えるのがおすすめです。
たとえば:
「今はただ共感して」
「この考え方がズレてないか判定して」
「辛口でもいいから、第三者の視点からアドバイスを」
こんな風に伝えておくと、AIの返答が自分の目的に合いやすくなり、より納得感のある気づきが得られるようになります。
④コーチングを受ける──自分では気づけない“思考のクセ”を発見
無意識に陥ってしまった「思考の堂々巡り」から解放してくれるのが、対話によるフィードバックです。
コーチングでは、コーチが「なぜそう思ったのか?」「ほかの見方はできる?」といった問いを投げかけてくれます。
この過程で、無意識の前提や思い込みに気づくことができます。
必ずしもプロのコーチにつく必要はなく、信頼できる身近な人と相互コーチングしてみるだけで、立派なメタ認知トレーニングになります。
注意点:メタ認知で、自分を責めてはいけない
一つだけ、注意しておきたいことがあります。ここに挙げたトレーニングでメタ認知を高めることは、「自分の未熟さ・不完全さ」に気づきやすくなることにつながります。
そのとき意識が「ダメな自分を責める」方向にいかないように注意してください。
メタ認知とは自分を裁くのではなく、「見守るもう一人の自分を育てること」です。気づくこと=直すこと ではありません。むしろ「気づけるようになったこと自体がすごい」と、自分を褒めるぐらいが丁度良いです。
メタ認知力が上がると何が変わるか?
メタ認知のトレーニングを通じて「自分の思考や感情に気づけるようになる」と、日常の中でさまざまな変化が起こりはじめます。
ここでは、ビジネスや人間関係における4つの代表的な変化をご紹介します。
① マネジメント能力が高まる
リーダーとしてチームを率いるとき、最も求められるのは「冷静な自己認識」と「他者への配慮」の両立です。
メタ認知力が高い人は、次のような行動が自然とできるようになります。
- 感情的に言いそうになったとき、一呼吸置く
- 相手の反応を観察し、伝え方を微調整する
- 自分の思い込みや決めつけに気づき、修正する
結果として、部下からの信頼や共感が得られやすくなり、チームの結束にもつながります。
② 他者の意見を受け入れやすくなる
自分の考えに固執するのではなく、「それとは別の視点もある」と思えること。
これもメタ認知力の恩恵です。
- 自分と違う意見に対しても、いったん「なるほど」と受け止められる
- 話し合いの中で「自分は今、何を守ろうとしているんだろう?」と内省できる
- 対話が対立ではなく、探究の場になる
これは、職場だけでなく家庭や友人関係にも良い影響を与えます。
③ 認知バイアスに気づきやすくなる
私たちは誰でも、思考のクセや偏りを持っています。
たとえば──
- 確証バイアス:「やっぱり自分が正しかった」と都合の良い情報だけ集めてしまう
- ラベリング効果:「あの人は面倒な人」と決めつけて、行動すべてをそう見てしまう
- ネガティビティバイアス:成功より失敗の方にばかり意識が向いてしまう
こうしたバイアスに気づけるようになることで、「冷静な判断」や「柔軟な行動」がしやすくなります。
④ 気持ちの切り替えが早くなる
自分の感情を否定したり押し込めたりする必要はありません。
でも、それに飲み込まれない視点を持つことで、「感情と付き合う力」が育ちます。
怒っている自分に「あ、今の俺、めっちゃ怒ってる」と気づく
失敗したときに「さあ、私、ここからどうする?」と気持ちを切り替えられる
このように、メタ認知力が上がることは自分の感情や弱さを受容できるようになり、一つの感情にとらわれることが少なくなります。
⑤問題解決能力が高まる
ここまで書いたように、特定の意見や感情へのこだわりが減るということは、自然体で全体を俯瞰できることにつながります。
メタ認知を応用して、バランスよく多角的に物事を見られることは、結果的に問題解決能力の向上に直結します。
まとめ──“自分を知る”って、どういうこと?
私たちは「自分のことは分かっている」と思いがちですが、実際には、自分の感情や行動の理由に気づいていないことが多くあります。
だからこそ、自分の考えや気持ちを一歩引いて見つめる「メタ認知」の力が大切です。この力が高まれば、感情に流されにくくなり、人との対話も柔らかくなります。
「なぜ自分は今こんなふうに反応したのか?」
と問いかける習慣が、日々のコミュニケーションや意思決定を変えていくかもしれません。
このブログでは今後も心理学や行動経済学の考えを元に、自分とと向き合うヒントを発信していきます。
ということで、今回はここまで。