こんにちは、柴山です。
FX投資でありがちなストーリーとして…
初心者が円安トレンドに乗ろうとドル円を買いでエントリー。
最初は順調に含み益が出ていたが、ある日を境に相場は逆行──急激な円高が進み、あっという間に含み損へ。
「これは一時的な調整だろう」
「すぐ戻るはず」
と根拠のない希望を抱きながらポジションを保ち続ると…
──結局、強制ロスカット。
「損切り」できなかったポジションが、自動的に清算され、大きな損失だけが現実として残った。
なぜこんなことになってしまうのか?
ここでは、
「投資のセンスがないから」
「情報が足りなかったから」
という視点ではなく、プロスペクト理論という心理経済学の視点から説明してみます。
今回記事はこんな方におすすめ
- FXなど投資をやってみようかと思っている
- 投資にハマっている知人に忠告したい
- 損切が苦手な人間の心のメカニズムについて知りたい
- 投資とギャンブルの違いを知りたい
投資家の心を支配するプロスペクト理論と損失回避バイアス
プロスペクト理論とは、心理学者ダニエル・カーネマンらが提唱した理論で、「人は利益より損失に強く反応する」という、「損失回避バイアス」の前提に基づき、意思決定のクセを説明するものです。
この理論では、人は
- 同じ金額でも、「得した喜び」より「損した苦痛」の方が2倍ほど強く感じる
- 利益が出ているときはリスク回避的、損失が出ているときはリスクを取りがちになる
つまり、損をしている状況に置かれた投資家は、合理的判断よりも感情に支配されやすくなります。
本来であれば、「これ以上下がる前に売って損を小さくしよう」と判断すべき場面で、「今売ったら損になる」「損を“確定”するのが怖い」と、感情的なブレーキがかかるのです。
なぜ損切りできない?「確定する損失」への異常な恐れ
含み損のままであれば、「まだ戻る可能性がある」と考えることができます。
しかし売却したり強制ロスカットとなると、その損は現実のものになります。
この「損を確定させたくない心理」が、私たちを身動きできなくさせるのです。
これは投資に限った話ではありません。
例えば、次のような「投資とギャンブルの中間」にあるような分野でも、同じような心理が働きます。
- FX(為替の短期取引)
- 仮想通貨(値動きの激しいデジタル資産)
- 宝くじ(ほぼゼロに近い確率の“夢”を買う行為)
- 商品先物取引(相場変動を先読みする高リスク取引)
- 不動産投資(大きな初期投資と長期的回収のギャップ)
いずれも、
「損が出ていても手放せない」
「負けを取り戻そうとする」
これらの傾向が強く出る場面です。
これらを経験する人々は、決して知識や理論が足りないわけではありません。
損失を回避したいという、人間として自然な心の働きが、冷静な判断を曇らせているのです。
感情トレードから抜け出すには?ポートフォリオとの付き合い方
ではどうすれば「損切りできない自分」を乗り越えられるのでしょうか。
もちろん、「損切りは必要」と頭では分かっている方がほとんどでしょう。そもそも、人間は分かってはいても非合理的な判断をしてしまう、というのがプロスペクト理論の核心です。
そのため、重要なのは感情を“排除”することではなく、感情を前提とした行動設計です。
具体的には:
- 事前に「損切りルール」を決めておく(例:−10%で売却)
- 価格ではなく“ロジック”に基づいて売買を決定する
- 日々の価格に一喜一憂しないよう、アプリ通知などを制限する
- 定期的にポートフォリオ全体を見直す習慣を作る
あらかじめ「感情には逆らえないのが普通」という前提で準備しておくことが、感情に飲み込まれないための防波堤になります。
投資はギャンブルとどう違う?共通点と決定的な差
「投資って、結局ギャンブルと変わらないのでは?」
そう感じるのも無理はありません。
実際、投資においても
- 「取り返そう」とする心理
- 「勝ちたい」という衝動
- 「やめ時がわからない」という混乱
これらはギャンブルと非常によく似ています。しかし両者には明確な違いがあります。それは、期待値のコントロールが可能かどうか。
- ギャンブル:基本的に期待値がマイナス(胴元が勝つ)
- 投資:選択次第で期待値をプラスにできる(情報と行動が反映される)
にもかかわらず、人はその期待値の差を活かせず、心理に支配されることで損を拡大してしまうのです。
ここに、プロスペクト理論が現実世界で機能してしまう構造があります。
投資とギャンブルを分ける、「期待値」とは?
「期待値」とは、ある行動を繰り返したときに得られる平均的なリターンを意味します。
たとえば、サイコロを振って1が出たら100円もらえる場合、
期待値は約16.7円(=100円×1/6)です。
ほとんどのギャンブルは、この期待値がマイナス。やればやるほど“損する構造”になっています。
一方、投資は選び方によって、期待値をプラスにできる可能性があるのが大きな違いです。
にも関わらず、「損したくない」という感情に支配され、冷静に見れば損切りすべき場面で「そのうち戻るはず」という感情に支配されてしまうことは、期待値を自ら放棄してしまう行為です。
期待値を活かすには、感情ではなく確率に基づいたルールで判断すること。そうでないと投資は限りなく“運任せのギャンブル”に近づいてしまいます。
損切りできない方が「人間らしい」かもしれない
「損切りができなかった自分はダメな投資家だ」
という気持ちが湧いてくるかもしれませんが、見方を変えれば人間としては自然なあり方とも言えます。
反対に、どんな場面でも冷静に損切が出来る人は、ある意味(良い意味?)で異常ということもできます。自分はそんな風にはなれないという方は、高リスクの投資あるいは投機には手を出さない方が賢明かもしれません。
ということで、今回はここまで。
プロスペクト理論や損失回避バイアスの全体像は、こちらの記事もご覧ください。
投資に良く似ていますが、ギャンブルとプロスペクト理論についてまとめた記事はこちらです。
こちらは、特に人間関係に絞ってプロスペクト理論を解説した記事です。