こんにちは、柴山です。
これまで中小企業診断士の各科目(2次試験では「事例」)について、自分なりに攻略のヒントになるような記事を書いてきました。
が、改めて考えてみると2次試験についてはもっと最初の入口にあたる内容が必要かと思い、今回記事にしてみました。具体的には事例Ⅰ~Ⅲでの試験時間80分の使い方、解くためのプロセスなどです。
逆に言うと、個別の論点(こういう問題についてはどうやって答えるのか、みたいな)については触れていません。また、中小企業診断士の試験制度全体の解説や難易度についての考証は下記記事が参考にしてください。
そもそも2次試験とは?事例Ⅰ~Ⅳとは?
この節については、もう分かっている方は飛ばしてもらって結構です。
そもそも2次試験とは…
- 1次試験を合格した受験生だけが受けられる
- 筆記試験(記述式)と口述試験から成る
- 筆記試験は1次試験を合格すると2度(1次を合格した年とその翌年)受験できる
- 筆記試験は毎年10月下旬に開催(年1回)
- 筆記試験は全4科目で各科目は「事例」と呼ばれる
- 筆記試験は全体で6割以上の得点、かつ4割未満の科目が無いことが合格条件
- 公式発表は無いものの筆記試験の採点は相対評価と思われる
- 筆記試験で合格すると口述試験に進める
- 口述試験は毎年1月下旬に開催(年1回)
- 筆記試験の合格率は約20%、口述試験はほぼ100%合格する
さらに2次試験の4つの事例のメインテーマは…
- 事例Ⅰ:組織・人事
- 事例Ⅱ:マーケティング・流通
- 事例Ⅲ:生産・技術
- 事例Ⅳ:財務・会計
となっています。試験時間は4事例とも80分です。
今回記事タイトルでは「2次試験」となっていますが、正確には2次筆記試験の事例Ⅰ~Ⅲを扱います。事例Ⅳと口述試験のことには触れません。
事例Ⅰ~Ⅲの構成はこうなっている
事例Ⅰ~Ⅲはメインテーマは異なるものの、問題の構成は基本的には同じです。
受験本番では、問題と解答用紙が渡されます。
問題用紙
・ホッチキス中綴じ式の冊子
・表紙には受験に際しての注意事項
・問題は与件文と設問から成る
・与件文は2000~3000文字程度
・設問は全4~5問程度
・解答の文字数制限は30~200字程度
・上記以外に図表(グラフ・表・地図)が付く場合がある
解答用紙
・用紙1枚
・解答記入欄には、各設問で指定された文字数制限に合わせて、マスが仕切られている。
ちなみに与件文は近年は長くなる傾向にあり、3000字越えの場合もあります。また解答の文字数制限で最も多いのは100文字以内の指定です。
なお、まれに事例Ⅰ~Ⅲでも計算が必要な出題がされる場合があります。このため、いちおう電卓の用意が必要です。
次に事例Ⅰ~Ⅲで共通する、問題の構成について説明します。
与件文について
与件文は架空企業のケーススタディです。架空企業と言っても実在企業をモデルにしていると言われています。毎年の慣例として事例企業の呼称は、事例ⅠではA社、事例ⅡでB社、事例ⅢでC社(事例ⅣでD社)となっています。
与件文で与えられる情報としては、事例企業についての
- 業種、規模(売上+人数)
- 部署など構成
- 事例企業の歴史
- 現在起きている問題
- 顧客、競合
- 取り扱っている商品・サービス
- 社長の想い(地域貢献したい)
などが文章で(箇条書きではなく)まとめられています。
設問について①:分析問題
事例Ⅰ~Ⅲに共通する典型的な出題パターンとして、第1問は分析問題となるのがほとんどです。
分析問題あれこれ
- A社の強み・弱みを答えよ
- A社が事業拡大できた理由を答えよ(間接的に強みを聞いている)
- B社をSWOT分析せよ
- C社を取り巻く環境を3C分析せよ
など、コンサルとして事例企業にアドバイスする前段階として、事例企業自体もしくは事例企業を含んだ市場環境について客観的に分析させるものです。
なお事例Ⅰについては、「なぜ2代目を役職につけたのか理由を答えよ」のように、経営者が行った組織・人事の意図について第1問から続く複数問で出題されることがあります。
分析問題、および事例Ⅰの第1問で人事などについて問うてくる問題の攻略については下記を参照してください。
分析問題は、この後で解説する助言問題よりも解答の文字数が少なく、解答をコンパクトをまとめることが必要になります。
基本的に解答の元となる情報は与件文に含まれていますので、分析問題を大外しする受験生は少ないはず。つまり合格する上では外せない問題ということになります。
設問について②:助言問題
第2問以降の典型パターンは、事例企業が抱えている問題や今後の経営戦略についての助言、提案を問うものです。
もう少し具体的に書くと
- A社で組織・人事上の課題とその解決策について助言せよ
- B社が新規顧客を獲得するための施策について助言せよ
- C社の生産工程で発生している問題とその解決策について助言せよ
- C社がX社との新規取引を進める上で留意すべき点を述べよ
こういった感じです。
助言問題は分析問題より配点が高いことが多いです。
助言問題では与件文にある情報だけでは解答を作れない場合もあり、完璧な解答は困難です。それでも部分点を少しでも多く積み重ねることが合格への道のりです。
解答作成までの流れ(設問ファーストVer.)
2次試験では試験時間80分をどう使うかが、合格・不合格を分ける大きなポイントになります。
まず多数派と思われる、「設問文から先に読む派」の流れに沿って、だいたいの試験時間の内訳を書いてみました。
試験開始直後
試験開始から0~1分
・受験番号記入
・問題用紙・解答用紙の印刷に問題が無いか確認
試験開始から2分くらい
・ビリビリタイム
⇒問題用紙の冊子を、定規を使いページごとに分けます(ビリビリする)。人によりやる・やらないがありますが、どちらが絶対的に良いとかはないので、両方やってみて自分がやりやすい方を選んでください。
試験開始後10分くらいまで
与件文より先に設問文に目を通します。
もちろん、ただ読むだけではなく何が問われているのか、つまり与件文を読む際にどのような情報を探しに行く必要があるのかを確認します。(設問解釈)
かつては設問文をしっかり読めば与件文を読まなくとも解答の方向性がほぼ分かるような問題もあったようですが、最近の問題ではそういったことは難しい気がします。なので私的にはここであまり時間をかけることはおすすめしません。
ちなみに設問の確認だけで10分というと長いような気がするかもしれませんが、5問あるとすれば1問当たり2分なので大した時間が割けるわけではありません。
このため設問文を読んだだけでは分析できる要素が少なそうだと判断した場合、早めに与件文を読むことに移行します。
試験開始後25~30分くらいまで
与件文を読み、解答に使いそうな箇所にアンダーラインを引く、書き込みをするなど整理します。
例:アンダーラインや書き込みをする箇所あれこれ
- 先に目を通した設問に関係ありそうな箇所
例:設問1に関係しそうな箇所には赤 - 強み・弱みなどSWOTに関係する箇所
例:強みに関係しそうな箇所には赤 - 社長の想い、経営ビジョン
- 時制に関する箇所(創業当時、1990年代は…など)
- 社長の代替わりごと
ちなみにアンダーラインや書き込みに使う筆記用具については、シャーペンだけで済ませる場合と、蛍光ペンなどを使って項目ごとに色分けする場合があります。
つまりSWOTの4要素で色分けしたい場合はそれだけで4色、さらに社長の想い(地域貢献したいなど)まで色を付ける場合はさらに色数が必要です。
たくさんの色を使うのはメリット・デメリットがあります。
メリット
- 色分けが完成すれば解答要素を見つけやすくなる
デメリット
- 色分けすること自体に集中力が割かれ、与件文の読み込みが浅くなる
- 机の上が蛍光ペン・マーカーなどでごちゃごちゃになる
これについても、両方やってみて自分がやりやすい方法を見つけることが大切です。
試験開始後50~60分後くらいまで
問題用紙から切り取った余白部分を使い、走り書き程度のメモで良いので、解答に使う情報(解答要素)を整理します。
メモの取り方についても正解は無く、
キーワードとなる単語を数個並べただけで解答を作成し始める(解答用紙に記入し始める)人
解答の下書きに近いところまでメモ書きを作ってから、解答用紙に記入し始める人
などなど色々です。
~試験終了まで
これはもう、解答用紙を可能な限り全て埋めて、あとは残り時間をチェックするしかやることはありません。
もちろん、最後の最後に受験番号の記入忘れ・間違いが無いかを確認するのを忘れずに。
あなたは速攻派?遅攻派?見極めは慎重に
2次試験の時間の使い方には大きく分けて2つあると思います。
- 速攻派:試験開始から40~50分くらいまでにはひとまず解答欄を埋める
とにかく一刻も早く解答欄を埋めてしまい、残りの時間で余裕を持ってチェック・修正する - 遅攻派:試験終了まで時間を使い切って解答欄を埋める
解答作成後のチェックは最低限で良いので解答作成に時間をかける
上に書いた時間の使い方はこちらです。
余裕を持ってチェックできる分、速攻派の方が優れているように思えますが、これも人により向き不向きがあります。
独断と偏見による速攻派・遅攻派の比較
速攻派 | 遅攻派 | |
得意・不得意 適性など | 与件文を読むのが速い 解答要素をまとめるのが速い 解答を書くのが速い | 速読が苦手 ⇒与件文を慎重に読みたい 解答要素を慎重にまとめたい 解答を落ち着いて書きたい |
メリット | 早く解答欄を埋めることで、いったんプレッシャーから解放されてから落ち着いて解答を見直すことができる | 与件文の見落としなどを極力減らせる |
デメリット | 解答作成を急ぐことによるミスの可能性。 | 最終チェックできる時間が短くなる |
向いている人 | 速く読み速く書けて、思い込みが少ない人 | 速攻派は自分には無理だと思った人 |
上の表を読むと何となく伝わるかもしれませんが、私は遅攻派です。
理由としては、
- 急いで読むと見落としが多い
⇒2次試験ではキーワード1つ見落としただけで致命傷になりかねません。 - 一度書いた解答を客観的に見直すのは相乗以上に難しい
⇒試験が終わってからならともかく、試験中に「この設問への解答への方向性はこれだ!」と一度思い込んでしまうと、ニュートラルな視点でチェックすることはかなり難しいです。(少なくとも私にとっては)
特に2次試験の解答は「多面的な方が良い」とされています。1つの視点から書き上げてしまった解答に対して
そう言えば、この論点も必要だった!!!
と後から気づくのは私にとっては難易度が高いと感じました。
「多面的な解答」とは何なのか
仮にあなたが医師だったとします。
健康上の問題から本気でダイエットしなければいけない人に対して
とりあえず食事を減らせばOKです!
と伝えたらそれは良い助言と言えるでしょうか?
これはヤバい…
当然、答えはNO!のはずです。痩せないとヤバいという人に対して真剣に助言しようと思ったら、適度な運動や食事、それから生活習慣についても触れなければなりません。
中小企業診断士が経営者に対してする助言も同じです。今起きている問題を解決するために助言せよ、と言われたら重要な項目を一通り網羅するのが自然な流れだと思います。
ということは、
今後A社が必要な人材を確保するための施策を助言せよ
と問われて、離職率を低下させる施策ばかり書いて採用について全く触れなかったら、それは前述の「とりあえず食事を減らせばOK」と同じ次元になってしまうということです。
話を時間の使い方に戻すと、私も速攻・遅攻の両パターンを模試や過去問演習でやってみましたが、その結果として自分は早く解答欄を埋めることに気を取られない方が良いという結論に至りました。
ここでフレームワークについて
中小企業診断士2次試験において伝統(?)のフレームワークというものがあり、解答要素を抜け漏れを防ぐこと、および多面的な解答を作る上で大変役立ちます。(本当に)
このうち事例Ⅱの「だなどこ」フレームワークについては、結構頑張って掘り下げた記事がありますので良かったら参考にしてください。
与件文から先に目を通すのはどうなの?
前述したのとは逆に与件文から先に目を通すやり方も当然あります。集計を取った訳ではありませんが、恐らくこっちの方が少数派なはずです。
考えられる理由としては、何が問われているかを把握してから与件文を読んだ方が必要な情報が見つけやすい、ということだと思います。
ただし、それは考えようによっては与件文をニュートラルな視点で読んでないということになります。
そのため思い込みが激しい人で、設問文を読んだ途端に
あ!これは令和〇年の第〇問と同じパターンだ!
解答は△△の方向性のはずだから
あとは与件文に■■の情報を取りに行くだけだ!
みたいになってしまいがちな場合は、
与件文を先に読む
あるいは
設問から読むが、目を通す程度にする
など自分の個性に合わせた試行錯誤が要ると思います。
「自分がやりやすい方法を見つけることが大切」という曖昧な結論
今回の記事では何度となく「自分がやりやすい方法を見つけることが大切」的なことを書きました。
結論というか最適解が欲しい受験生の方からすると読んでいてストレスが溜まったかもしれませんが、これについては…
2次試験はそういうもんだから、しゃーない
としか言いようがありません。
解答を書くのがやたらと速い人、速読でも読み落としが無い人など、あなたには無い能力を持った人のやり方を真似ても合格は難しいと思います。
面倒臭いですが
・速攻・遅攻
・設問から読む・与件文から読む
・多色マーカーを使う、使わない
など思いつく限り試し、自分に合った方法を模索するのが合格への近道です。
なお、ごくまれにそういった工夫を全くせずに、
単に国語の問題だと思って解いたら受かっちゃった
という方がいますが、そういう方の真似はしたくでもできないので、ここでは考えないことにします。
ということで、今回はここまで。